研究・教育の概要
生物の体は、たくさんの種類の細胞が精密に組み合わさってできており、それぞれの細胞が役割を分担することで、組織や器官、そして個体全体の生命活動が成り立っています。生命のしくみを正しく理解するためには、細胞や組織の形や動き、分子のふるまい、さらに生理機能が時間とともにどのように変化するのかを、総合的に捉えることが重要です。当研究室では、このような時間的・空間的に変化する生命現象を「生命動態」として捉え、その仕組みを明らかにすることを目標としています(図1)。培養細胞や動物モデルを用いた実験に、最先端のライブイメージング技術を組み合わせることで、細胞レベルから個体レベルまで、さまざまな階層の生命現象を観察・解析しています。さらに、実験から得られる大量のデータをもとに、数理モデルや機械学習を用いた解析を行い、生命現象に共通するパターンや予測可能な法則性、因果関係の解明に取り組んでいます。これらの実験とデータ解析を相補的に活用することで、生命システムがどのように動的に制御されているのかを理解し、その知見の応用につなげることを目指しています。
主な研究テーマ
老化のメカニズムの理解と抗老化への挑戦
超高齢化社会を迎えた現代において、老化のしくみを理解することは重要な研究課題です。近年、細胞老化や個体老化に関わる分子メカニズムが次第に明らかになってきましたが、加齢にともなって老化細胞が体内にどのように蓄積していくのかについては、まだ十分に理解されていません。私たちの最近の研究から、老化細胞の蓄積に関与する新たなメカニズムの存在が示唆されました。本研究室ではこの発見を出発点として、老化が進行する仕組みを明らかにするとともに、老化を抑制・制御する「抗老化(アンチエイジング)」への応用を目指した研究を進めています(図2)。
器官再生メカニズムの理解
再生医療への期待が高まる中、損傷した器官を再生させるしくみを理解することは極めて重要です。ヒトでは多くの器官が再生できない一方で、ゼブラフィッシュは神経、筋肉、ヒレ、感丘(内耳に相当する器官)などを再生できる、非常に高い再生能力をもつモデル生物です。本研究室ではゼブラフィッシュを用いて、器官再生の過程で細胞がどのように振る舞い、どのようなシグナルが働いているのかを解析しています。これらの知見をもとに、iPS細胞やES細胞を用いた器官再生や再生医療へと応用可能な原理の理解を目指しています。今は特に、感丘の再生に注目しています(図3)。
細胞ダイナミクス計測システムの利用と改変
バイオー物質創成ファウンドリでは、機能が未解明なポリマーや新規材料の生理機能を明らかにする研究が行われています。本研究室はその中核を担い、細胞の生死、老化、分化といった細胞ダイナミクスに与える影響を定量的に解析しています。ライブイメージングや自動計測システムを活用し、多数の条件を効率よく評価することで、細胞機能に影響を与える因子の探索を行っています。また、こうした計測・解析の自動化を推進することで、より大規模かつ高精度な生命現象の理解を目指しています(図4)。
主な発表論文・著作
- Yamada S., et al., Nature Communications 16, 9887, 2025
- Matsui T. Current Opinion in Cell Biology 76, 102083, 2022
- Takeuchi Y., et al., Current Biology, 30, 670-681, 2020
- Sari D., et al., Scientific Reports, 8, 4335, 2018
- Matsui T. Frontiers in Cell and Developmental Biology, 6, 142, 2018
- Yamada S., et al., Biology Open, 6, 1575-1580, 2017
- Akiyama R., et al., Development, 141, 1104-1109, 2014
- Retnoaji B., et al, Development 141, 158-165, 2014
- Matsui T., et al., Development 139, 3553-3560, 2013
- Matsui T., et al., PNAS, 108, 9881-9886, 2011
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奈良先端科学技術大学院大学