器官発生工学 (磯谷研究室)

- 准教授
- 磯谷 綾子
- 助教
- 由利 俊祐
- { isotani, shunsukeyuri }@bs.naist.jp
- 研究室HP
- https://bsw3.naist.jp/isotani/
研究・教育の概要
哺乳類において、精子と卵子が融合した受精胚は、8細胞期胚まで、すべての細胞に分化することができる万能性を持ち、着床直前の胚盤胞期になると、将来、胎盤になる栄養膜細胞と、様々な組織や臓器へと分化する内部細胞塊に運命が分かれます。内部細胞塊から樹立された胚性幹細胞(ES細胞)は、胎盤組織以外であれば、生殖細胞を含むどんな細胞にでも分化できる多能性を持ち、この性質は、再生医療研究を大きく後押しし、誘導型多能性幹細胞(iPS細胞)の発見にも繋がりました。初期胚、ES/iPS細胞と発生工学技術を組み合わせた、動物モデルを通して、再生医療に繋がる基礎研究を目指します。
主な研究テーマ
異種キメラを用いた臓器形成モデル
胚盤胞とES細胞を用いれば、マウスとラットの細胞を個体の中に合わせ持つ異種キメラが誕生させることができます(図1)。胸腺のないヌードマウスの胚盤胞とラットのES細胞を用いて異種キメラを作ると、胸腺がラットの細胞で構築されることが分かりました。つまり、異種キメラの系を用いれば、ES細胞やiPS細胞から、複雑な3次元構造を持つ臓器を作ることができます。異種キメラ内に作られたラットの胸腺は、T細胞を成熟させることが分かりましたが、マウスよりも小さく非自己を排除するT細胞ができているかどうかはまだ明らかになっていません(図2、発表論文5)。一方、マウスの胚にラットのES細胞を注入した異種キメラの精巣内には、マウスだけでなく、ラットの精子もできますが、これらの精子は同種の卵子と受精させると、次世代が誕生することが分かっています(発表論文3, 4)。このように、異種キメラの体内で作られた臓器・組織、細胞が正しく働いているかを明らかにすることは、再生医療に結びつけるためにも、今後の重要な課題になります。異種キメラの系を用いて、様々な臓器形成モデルの確立を試み、臓器・組織、細胞が正常に機能するために必要な要因を明らかにしていきます。
新規動物モデルの開発
近年、次世代遺伝子改変技術として注目されているゲノム編集技術 (CRISPR/Cas9システムなど)を用いれば、簡単に遺伝子破壊動物を作製できるようになりました。この技術をES細胞と組み合わせば、複雑な遺伝子改変でも効率的に行えるようになります。しかし、ES細胞は、胎盤に分化する能力がありません。胎盤は、受精卵から補完するしかありませんが、2細胞期胚の時に2つの割球を融合させて、4倍体にすると、この4倍体胚は、胎盤の組織にしか寄与できません。この4倍体胚に遺伝子改変を行ったES細胞を注入する4倍体胚補完法では、胎児は、ES細胞のみから作ることができ、F0での解析が可能となります(図3、発表論文1、2)。
このような発生工学技術をさらに発展させ、生命科学研究のブレイク・スルーに繋がるような新たな動物モデルの開発を目指します。

ラットの胚盤胞にマウスのES細胞を注入して作製したラットサイズの異種キメラ(上)と、マウスの胚盤胞にラットのES細胞を注入して作製したマウスサイズの異種キメラ(下)。

ヌードマウスにラットのES細胞を注入して作成した異種キメラのラットの胸腺は、胸腺を持たないヌードラットの腎皮下に移植すると、成熟したT細胞(rCD4+/rCD8-、またはrCD4-/rCD8+)が出現する。

遺伝子ノックアウト(KO)や、遺伝子ノックイン(KI)をしたES細胞を4倍体の受精卵に注入すると、胎児・産仔はES細胞由来の細胞からのみ構成される。このため、遺伝子の機能を次世代を経ずに解析することができる。
主な発表論文・著作
- Sari GP et al., Sci Rep, 12, 21985, 2022
- Hirata et al., Exp Anim, 71, 82-89, 2022
- Kishimoto et al., Sci Rep, 11, 8297, 2021
- Isotani et al., Biol Reprod, 97, 61-68, 2017
- Isotani et al. Sci Rep, 6, 24215, 2016
- Isotani et al. Genes Cells, 16, 397-405, 2011
- Isotani et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 102, 4039-4044, 2005