NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

植物発生シグナル (中島研究室)

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教授
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助教
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研究室HP
https://bsw3.naist.jp/nakajima/

研究・教育の概要

植物発生シグナル研究室では、遺伝的プログラムや環境因子に応答した植物のダイナミックな成長を統御する機構や、その進化を明らかにする研究に取り組んでいます。分子生物学や遺伝学の手法に、独自のライブイメージングやAIを用いた画像解析技術を融合させ、植物の発生と成長を司る未知の原理を遺伝子や分子のレベルで解き明かします。

主な研究テーマ

環境因子に応答した植物の動的成長メカニズム

自ら生育場所を変えることが出来ない植物は、変動する環境に適応して体や器官の形を柔軟に変化させる能力を発達させています。中枢神経や筋骨格系を持たない植物が器官の形態や成長ベクトルを変化させるためには、一つ一つの細胞が分裂や伸長の方向を変化させながら、全体として統一された行動をとらなければなりません。このような複雑な芸当を植物がどのように成し遂げているのかは、大きな謎に満ちています。私たちは、シロイヌナズナの根を用いた高精細なライブイメージングにAIを用いた画像解析や数理モデリングを融合することで、植物の器官が環境因子に応答して自在に成長する機構を明らかにしようとしています。これらの研究は、変動する地球環境下で食糧やエネルギーを持続的に確保する技術の開発にも必須の課題です(図1)。

土壌環境のセンサー機能を担う根冠組織の発生と分化制御

根冠(Root cap)は根の先端を覆うキャップ状の組織であり、植物と土壌環境のフロントラインを構成しています。根冠は根端メリステムの物理的な保護に加え、重力方向の感受、摩擦の低減、栄養や水分といった土壌環境の受容など、植物の成長に必須の重要な機能を担っています。根冠を構成する細胞群は、最内層での細胞新生と最外層での自律的な細胞剥離により一定の周期でターンオーバーするユニークな動態を示します。私たちはオミクス解析や独自のライブイメージング技術を用いることで、根冠の発生と機能発現を支える遺伝子群を同定し、それらの機能を解き明かそうとしています(図2)。

陸上植物における有性生殖システムの制御と進化

有性生殖は生物の形質に多様性を与え、生物進化の基盤を構成する重要な発生プロセスです。有性生殖の制御機構を明らかにする研究は、食糧の増産やエネルギーの確保においても重要な課題です。植物発生研究のモデルとして多用される種子植物では、生殖細胞が花器官の奥深くで作られ受精するため、その分化過程や遺伝的制御を解析することは非常に困難です、私たちは生殖細胞の形成過程を容易に観察できるコケ植物に着目し、その性形態やゲノム配列を種子植物モデルと比較解析することで、陸上植物に保存された性分化や生殖細胞形成の制御因子を同定しています。これらの制御因子を起点とした研究から、植物に普遍的な生殖細胞の分化機構や受精の制御機構を明らかにしようとしています(図3)。

図1
(図1)
図2
(図2)
図3
(図3)

主な発表論文・著作

  1. Koi et al., Curr. Biol., 26, 1775-1781, 2016
  2. Kamiya et al., Development, 143, 4063-4072, 2016
  3. Nakajima, Curr. Opin. Plant Biol., 41, 110-115, 2018
  4. Miyashima, Roszak, Sevilem et al., Nature, 565, 490-494, 2019
  5. Hisanaga, Okahashi et al., EMBO J., 38, e100240, 2019
  6. Hisanaga, Yamaoka, Kawashima et al., Nature Plants, 5, 663-669, 2019
  7. Fujiwara, Goh, Tsugawa et al., Development, 148, dev196253, 2021
  8. Hisanaga et al., eLife, 10, e57090, 2021
  9. Goh, Sakamoto et al., Development, 149, dev200593, 2022
  10. Fujiwara et al., Curr. Biol., 33, 886-898, 2023