研究室・教員

幹細胞工学 (栗崎研究室)

栗崎教授の顔写真
教授
栗崎 晃
助教
高田 仁実、印東 厚
Email
{ akikuri, htakada, atsushiinto }@bs.naist.jp
研究室HP
https://bsw3.naist.jp/kurisaki/

研究・教育の概要

ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、無限の増殖能と体の全てを構成する細胞への分化能を併せ持つ特殊な幹細胞であり、その能力ゆえに再生医療や創薬などへの応用が期待されています。一方、幹細胞を利用する側の視点で考えると、多能性幹細胞は成体の様々な細胞へと分化しうる非常に強力な分化能を持つ細胞であるので、この分化能力をワンステップずつ精密にコントロールしながら、目的細胞へと分化させて行くことが重要になります。このような幹細胞の分化方法には必ずしも正解があるわけではないのですが、発生過程では各臓器が非常に高い精度で息をのむほど美しい3次元構造が形成されることから、臓器発生のしくみを理解することが、多能性幹細胞の分化方法を開拓する上でよいヒントとなります。本研究室では、特に胃や肺などの組織形成のしくみの解明を進めつつ、幹細胞の分化制御方法を開発し、さらに疾患モデルや組織再生への応用を目指した研究を行っています。

主な研究テーマ

胃組織の形成と疾患

胃は、主要な消化器官ですが、その発生のしくみは意外とわかっていません。発生初期の内胚葉から一本の消化管が形成され、胃の予定領域が決定され、さらに成熟分化して胃の内側に胃腺と呼ばれる円柱状上皮構造がびっしりと形成されると考えられていますが、そのメカニズムはあまりわかっていないのです。 私たちは、最近マウスES細胞から試験管内で胃組織を丸ごと分化させる方法を報告しました(図1)。この幹細胞分化方法は、胃の組織が形成されるしくみを調べるための強力な検証ツールになります。また、胃がんなどの疾患は、あまり良い動物モデルが存在しないことから、このような試験管内で作製した胃組織はがんなどの病気の発症機構を調べる上でも有用だと考えられます(図2)。私たちは、胃の発生のしくみを解析しつつ、この試験管内分化モデルを利用して分化のメカニズムを検証するとともに、疾患発症機構の解明にも取り組んでいます。

肺組織の分化と組織再生

肺は、胃と同じく、発生初期の内胚葉から形成された消化管から、肺の元となる肺芽が出芽し、増殖しながら枝分かれして発生していきます(図3)。最近、ヒトiPS細胞から肺の組織細胞を分化させる方法が検討されていますが、私たちも肺前駆細胞や気管支繊毛上皮細胞を分化させる方法の開発を進め、その分化制御のしくみを明らかにするための研究を進めています。

脂肪組織の幹細胞と組織再生

脂肪組織には間葉系幹細胞という線維芽細胞によく似た幹細胞が存在し、生体内で抗炎症作用、血管新生促進作用、再生促進作用などを示すことが知られています。私たちは、脂肪組織に含まれる細胞集団をシングルセルレベルで解析し、その作用メカニズムについて研究を進めています。また、最近発見した抗肥満ホルモンの脂肪組織における作用についても検討を進めています。

図1
(図1) マウスES細胞から試験管内で3次元培養により分化させた胃組織。左図は、分化培養開始後56日目の胃組織の組織切片像。右図は、胃の上皮組織をEpcam抗体(赤)、間質組織をDesmin抗体(緑)、核をDAPI(青)で免疫蛍光染色した切片像。間質組織で覆われた胃腺構造を有する胃組織を試験管内で分化させることができる。
図2
(図2)マウスES細胞から胃組織を分化させる培養法を応用した胃の疾患モデル。左は正常モデルであり、右は胃粘膜の異常な肥厚を伴うメネトリエ病(胃巨大皺壁症)のモデル。分化28日目から細胞増殖因子であるTGFαをES細胞で発現させて培養することで、試験管内で胃の疾患モデルを作製することができる。
図3
(図3) マウス初期発生過程で見られる肺の元となる肺芽の内部には、成体の肺の様々な機能性上皮細胞に分化する肺前駆細胞が誘導されてくる。この肺前駆細胞と同等の細胞を、多能性幹細胞であるES細胞やiPS細胞から試験管内で分化させることができる。

主な発表論文・著作

  1. Hashimoto O, Cell Rep., 25, 1193-1203, 2018
  2. Sasagawa Y, Genome Biol. 19, 29, 2018
  3. Noguchi TK et al., Nature Cell Biology, 17, 984-993, 2015
  4. Watanabe-Susaki K et al., Stem Cells, 32, 3099-3111, 2014
  5. Seki Y et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 107, 10926-10931, 2010
  6. Nakanishi M et al., FASEB J, 23, 114-122, 2009
  7. Satow R et al., Developmental Cell, 11, 763-774, 2006
  8. Kurisaki A et al., Mol. Cell. Biol., 26, 1318-1332, 2006
  9. Kurisaki A et al., Mol. Biol. Cell, 12,1079-1091, 2001