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奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

Research 研究

教員

池内特任准教授 特任准教授

池内 桃子

研究室ホームページ

https://bsw3.naist.jp/ikeuchi/

Webメディア

NAIST Edge BIOは、奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域 の各研究室で取り組んでいる「最先端」の研究プロジェクトや研究成果について、研究者だけではなく受験生や一般の方にも分かりやすく紹介するためのWebメディアです。
NAIST Edge BIO 第4回第29回

研究・教育の概要

植物は、組織の傷口や単離細胞からでも新たな個体を容易に作り出せる、卓越した再生能力を持っています(図1)。再生現象を可能にしているのは植物が内在的に持っている高い可塑性であり、そのおかげで環境の変化や外的刺激に応答して器官発生のプログラムや細胞の分化運命を劇的に変化させることができます。私たちは、再生現象の解析を通して、細胞リプログラミングの制御機構や多細胞集団の自己組織化メカニズムといった発生生物学の最重要課題にアプローチします。また植物が持つ器官再生能力は、接ぎ木からゲノム編集による育種まで、様々なアグロバイオテクノロジーの基盤となっています。しかし重要な作物品種の中には器官再生がうまくいかないものもあり、技術的なボトルネックとなっています。そこで私たちがモデル植物で得た分子制御機構に関する基礎生物学的知見を、作物の培養技術の開発にも活かしていきたいと考えています。

当研究室では学生が主体性かつ自律的に研究活動に取り組む姿勢を重んじており、指導教員は丁寧に対話をしながら研究指導をしています。研究活動を通して論理的な思考力や発信力およびコミュニケーション能力を培い、卒業後には様々な舞台で活躍できる人材を育てます。

図1

(図1) 植物の傷口に形成された不定芽は、独立したひとつの個体を新たに構築して生きていくことができる。

主な研究テーマ

接ぎ木における組織修復と器官接着のメカニズム解明

植物は器官が切断されると傷口で活発に細胞分裂を行なってカルスを形成し、傷を塞ぐとともに器官をつなぎ合わせます。私たちは、傷害応答性のWOX13遺伝子が組織修復と器官接着において重要な機能を果たすことを見出しました(図2WOX13はホメオボックス型の転写因子をコードしており、様々な標的遺伝子の発現制御を介して再生現象を制御していると想定されます。クロマチン免疫沈降法やRNA-seq解析を用いてWOX13の標的遺伝子候補を絞り込んでおり、現在は標的遺伝子群の機能解析を進めています。また、器官接着の際にカルスの細胞でどのような変化が起こっているのか?ということを細胞生物学的に解き明かす研究も展開していきます。

図2

(図2) 傷口にカルスを形成するメカニズム
切断刺激によって発現誘導されるWOX13は、細胞リプログラミングと分裂の活性化を介してカルス形成および器官の再接着を誘導する。WOX13は接ぎ面に形成されたカルスで発現する(*)

組織培養系におけるメリステム新生機構の解明

植物の組織片や単離した培養を、植物ホルモンのオーキシン・サイトカイニンを含む培地で培養すると多能性を持ったカルスを形成し、そこから永続的な幹細胞を持つシュート頂メリステムを新たに構築することができます(図3)。この過程では、細胞の段階的な運命決定や多細胞の自己組織化が起こっていると考えられますが、一見無秩序に見えるカルスの中からどのようにまた新たな秩序が構築されるのか?という発生メカニズムは明らかになっていません。私たちはメリステム新生のプロセスを、イメージング解析とシングルセルRNA-seq 解析を組み合わせて多角的に解析しています。さらに、再生しやすい突然変異体、再生が起こらない突然変異体などを複数発見しており、これらを解析することでメリステム新生の制御メカニズムが明らかになることが期待できます。

図3

(図3) カルスからのSAM形成過程
シロイヌナズナの組織片をオーキシンを高濃度で含むカルス誘導培地で前培養したのちに、サイトカイニンを高濃度で含むシュート誘導培地に載せ替えて培養すると、シュート頂メリステム(SAM,*)が形成される。蛍光顕微鏡画像では、SAMで発現するWUS遺伝子の発現部位を緑のGFP蛍光で示す。