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奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

Research 研究

教員

渡辺准教授 准教授

渡辺 大輔

赤坂助教 助教

赤坂 直紀

研究室ホームページ

https://bsw3.naist.jp/microbial_interaction/

Webメディア

NAIST Edge BIOは、奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域 の各研究室で取り組んでいる「最先端」の研究プロジェクトや研究成果について、研究者だけではなく受験生や一般の方にも分かりやすく紹介するためのWebメディアです。
NAIST Edge BIO 第23回

研究・教育の概要

人類に身近な微生物(酵母・乳酸菌・麹菌など)がどのようにふるまい、他生物や環境要因とどのように相互作用することで複雑な生態系を構築するのかを分子・代謝・細胞レベルで明らかにし、ミクロの世界における多様性の理解を目指した研究・教育を行います。食と健康を意識したバイオ技術にも貢献していきます(図1)。

図1

(図1) 微生物生態系における多様なインタラクション

主な研究テーマ

酵母の個性を読み解き、発酵をデザインする

酵母のアルコール発酵は、酒類や発酵食品の製造を支える、人類に最も身近な微生物機能の一つです。これまでの研究により、酵母の代謝経路や関連遺伝子の理解は大きく進みましたが、細胞あたりの発酵能力を思い通りに改変することは依然として容易ではありません。私たちは、日本が誇る微生物資源である清酒酵母に着目し、その高い発酵力を支える分子基盤の解明に取り組んでいます。これまでに、清酒酵母に特徴的な変異が高いエタノール生産性に寄与することを明らかにし、その知見を利用して他の産業酵母の発酵力向上や、低アルコール清酒に適した酵母の開発にも成功してきました。今後は、発酵力だけでなく香味形成も含めた酵母の個性を理解し、目的に応じて発酵を設計する独自の「発酵デザイン技術」の確立を目指します(図2左上)。

図2

(図2) 私たちは、日本酒の醸造で用いられる酵母の研究をきっかけに、アルコール発酵デザイン技術の確立を目指しています(左上)。また、発酵食品に関与する微生物のルーツを調べるため、自然界などからの探索を進めています(左下)。奈良漬のような伝統的発酵食品に潜む未知の微生物生態系の解明にも挑んでいます(右)。

伝統的発酵食品の微生物生態系をひもとく

世界各地の伝統的発酵食品は、単一の微生物ではなく、多様な微生物が共存し相互作用する複雑な生態系によって成り立っています。しかし、その安定した発酵がどのような微生物間相互作用によって支えられているのか、科学的に未解明な点は多く残されています。私たちは、日本酒や奈良漬などの伝統的発酵食品を対象に、発酵を支える微生物の実態とその関係性を明らかにしようとしています。これまでに、生酛造りにおける乳酸菌と酵母の相互作用を解析し、乳酸菌が酵母のアルコール発酵に影響を与えることを見いだしました。また、奈良漬に関わる特殊な乳酸菌を特定し、奈良漬が微生物の働きに支えられた発酵食品であることを科学的に示してきました。こうした研究を通じて、伝統的発酵食品の製造原理を理解し、その価値の再発見と生産安定化、新たな展開につながる知見の創出を目指しています(図2右)。

発酵食品・発酵微生物の起源を探る

現代の発酵食品製造では、目的に応じて選抜された微生物が用いられていますが、微生物が知られていなかった時代に、人々がどのように発酵を利用し始めたのかは十分にわかっていません。多くの発酵食品は植物を原料としており、その表面に生息する植物常在菌が発酵の起源に深く関わっていた可能性があります。私たちは、寺院に残された古文書や伝統製法の記録を手がかりに、失われた発酵食品や発酵微生物のルーツを現代のサイエンスで読み解こうとしています。特に、日本酒、味噌、醤油などに不可欠な麹菌について、稲わらなどを用いた自然接種の再現や、植物表面への適応機構の解明を進めています。最近では、麹菌を含む一部の微生物が植物表層成分を利用して生育できることを明らかにし、植物常在菌として定着する仕組みの理解に近づきました。これらの研究は、発酵文化の起源の解明にとどまらず、伝統的発酵食品の復刻や天然微生物を活用した新たな発酵技術の創出にもつながると期待されます(図2左下)。

発酵食品の新しい健康機能性を見つける

日本では古来、多種多様な伝統的発酵食品が造られ、現代に至るまで私たち日本人の食生活および健康長寿を支え続けています。しかしながら、発酵食品の健康増進作用に関しては科学的に未解明な点が多く残されています。私たちは、発酵食品の健康増進作用を微生物学的見地から解明しようとしています。特に原料分解酵素の供給源として、様々な発酵食品製造の要を担う麹菌に着目し、麹菌が生産する機能性物質探索およびその生産機序解明を目指しています。近年、麹菌が「生活の質(QOL)」改善作用を有する機能性ポリアミンの一種・アグマチンを著量生産することを明らかにしました。麹菌によるポリアミン生産の分子機序解明に加え、得られた知見を基に発酵食品の高機能化や高齢社会における健康長寿の促進に資する技術開発にも取り組みます(図3)。

図3

(図3) ポリアミン生合成経路(A、左)。アグマチンを含むポリアミンは様々なQOL改善効果を有することが知られています(A、右)。蒸米を基質として麹菌を培養すると、糖化液(麹甘酒)中に著量のアグマチンを生産・蓄積することを明らかにしました(B)。最近では、アグマチン生産の分子メカニズム解明を目指し研究を行っています(C)。