NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

微生物インタラクション (渡辺研究室)

渡辺大輔准教授の顔写真 木俣行雄准教授の顔写真
准教授
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助教
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研究室HP
https://bsw3.naist.jp/microbial_interaction/

研究・教育の概要

人類に身近な微生物がどのようにふるまい、他生物や環境要因とどのように相互作用することで複雑な生態系を構築するのかを分子・代謝・細胞レベルで明らかにし、ミクロの世界における多様性の理解を目指した研究・教育を行います。食と健康を意識したバイオ技術にも貢献していきます(図1)。

主な研究テーマ

発酵食品における微生物生態(図2

酵母Saccharomyces cerevisiaeは、パンや酒類をはじめとする発酵食品の製造に欠かすことのできない重要な真核微生物です。従来、酵母の研究の多くは、単純な培地での純粋培養により行われてきましたが、酵母という生き物の真の生きざまを理解するためには、食品の発酵と同様に多様な成分・微生物が混在する複雑系におけるふるまいを明らかにする必要があります。本研究室では、実際の発酵食品の製造工程から着想を得たユニークな環境を用いて、酵母-その他の発酵微生物(乳酸菌・麹菌など)-原材料成分(穀物・果実など)の三者間の相互作用とその分子機構の解明に挑戦しています。例えば、近年では、酵母のアルコール発酵を司るシグナル伝達経路や、奈良漬の製造に中心的な役割を果たす酵母と乳酸菌、発酵食品の起源における鍵を握るかもしれない植物常在菌などについて、続々と新たな発見を成し遂げています。

酵母オルガネラ機能の強化(図3

小胞体は分泌タンパク質や脂質の生合成を司るオルガネラです。小胞体の機能不全に対応するため、真核生物は総じて、小胞体ストレス応答を引き起こし、小胞体のサイズや機能を増大させます。私たちの研究室では、酵母をモデル生物として、小胞体ストレス応答のメカニズムに解明を進めるとともに、小胞体ストレス応答を人為的に活性化することにより、小胞体のサイズや機能が向上した酵母株を作製しました。このような酵母株では、有用分泌タンパク質(ヒト抗体などバイオ医薬品)や油脂、そしてビタミンやテルペノイド類を含む機能性脂質の増産が見込まれます。また、アミラーゼを大量に分泌する酵母や糸状菌(黒麹菌)を作り出し、新たな発酵生産技術の開発にも取り組んでいます。

TOR (Target of Rapamycin)シグナル経路の解明(図4

免疫抑制剤ラパマイシンの細胞内標的分子として発見されたTORキナーゼは、TORC1、TORC2と呼ばれる2種類の複合体を形成し、細胞外の栄養源やインスリン/成長因子による刺激を伝達するシグナル経路で働くことが明らかになっています。これらの活性異常が、細胞のガン化、神経疾患、糖尿病や老化に深く関わることが明らかになっていますが、TOR経路の制御機構には未だ多くの謎が残されています。私たちは、主にヒトと類似したTOR経路をもつ分裂酵母をモデルとして、多面的なアプローチを駆使することによってTOR経路の全貌を分子レベルで明らかにしようとしています。近年では、細胞増殖を促進することが知られているTORC1が、高温では増殖を抑制していることを明らかにしています。

図1
(図1) 微生物生態系における多様なインタラクション
図2
(図2) 酵母がアルコール発酵をどのように調節しているのかについては謎に包まれていましたが、清酒酵母を用いた研究により、細胞壁合成との関連を明らかにしました(①)。また、伝統的発酵食品の一種である奈良漬の微生物叢の解析(②)や、古文書に記された発酵食品の起源に迫る研究(③)にも近年力を入れています。
図3
(図3) 小胞体ストレス応答を恒常的に惹起することにより、酵母細胞の小胞体を大きく伸展することに成功しました(左図)。他種生物由来のカロテノイド生合成遺伝子を酵母細胞に導入すると、コロニーが着色しますが、小胞体ストレス応答活性化酵母ではカロテノイドの産生量が増え、さらに濃い色を呈します(右図)。
図4
(図4) 栄養情報を伝達するTORシグナル経路 (i)。分裂酵母をモデルとしてTORC1の基質認識メカニズムを解明しました (ii)。また最近では、高温環境における細胞増殖の抑制機構に興味を持って研究を進めています (iii)。

主な発表論文・著作

  1. Morozumi et al., iScience, 27, 108777, 2024
  2. Watanabe et al., Int. J. Mol. Sci., 25, 304, 2024
  3. Tai et al., Mol. Cell Biol., 43, 675-692. 2023
  4. Watanabe et al., NPJ Sci. Food, 7, 37, 2023
  5. Fauzee et al., Front Microbiol., 14, 1157146, 2023
  6. Watanabe and Hashimoto, Sci. Rep., 13, 9279, 2023
  7. Nguyen et al., Appl. Environ. Microbiol., 88, e01083-22, 2022
  8. Ishiwata-Kimata et al., Front. Cell Dev. Biol., 9, 743018, 2022
  9. Morozumi et al., J. Cell. Sci., 134, jcs258865, 2021