NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

神経システム生物学 (稲垣研究室)

稲垣教授の顔写真
教授
稲垣 直之 mailアイコン
助教
馬場 健太郎 mailアイコン
嶺岸 卓德 mailアイコン
研究室HP
https://bsw3.naist.jp/inagaki/

研究・教育の概要

私たちの研究室では、最先端のバイオサイエンスの研究を通じて、優れた研究者および社会で活躍するリーダーを育成することを目指しています。そのためにも、毎週行われるミーティングで成果の発表と議論を行い、短期・長期の目標設定とスケジュールのマネージメントができるように指導をしています。また、留学生を交えた環境の中、異なるバックグラウンドを持った人と理解・協力し合えるグローバルな人材を育成します。研究室では、細胞生物学、生化学、分子生物学、発生生物学、生物物理学の最先端の手法を駆使して研究がおこなわれていますが、スタートは難しくはありません。まずは生化学・分子生物学の基礎を取得し、興味やプロジェクトに応じて様々な手技を学ぶことができます。また、日々の研究を通じて、基礎医学の知識やバックグラウンドも身につけることができます。ラット、マウス、ゼブラフィッシュ、培養細胞の扱いも身につきます。

主な研究テーマ

脳内の神経ネットワーク形成のしくみ

神経細胞は脳内でコンピュータの半導体のように働きます。そのために、神経細胞は一本の軸索と複数の樹状突起を持ち、樹状突起で情報を受け取り、軸索の終末より情報を出力します(図1)。さらに、脳内で、複数の神経細胞が軸索を伸ばし、神経ネットワークを形成することで、私たちは感じたり、考えたり、運動したりすることができます。研究室ではこのような神経ネットワーク形成のしくみを、本研究室で発見されたタンパク質シンガー(図2)やシューティン(図3)の働きを解析して調べています。

細胞が正しい場所へ移動するためのナビゲーションのしくみ

私たちの体の中では、細胞が、細胞外のシグナルを受け取って正しく移動することにより、個体発生や神経ネットワーク形成、免疫・生体防御、組織再生といった様々な生命機能を支えています。また、この仕組みに破綻が起こると、奇形やがんの転移、免疫不全といった病気になります。研究室では、様々な細胞が細胞外のシグナルを受け取ってどのようにして推進力を生み出し、正しい方向に移動することができるのか、そのナビゲーションの仕組みを分子レベルで解析しています(図3)。[2-4, 6-12, 16]

医学への貢献を目指した研究

さらに、以上の基礎的な研究を基盤として、小児の神経難病の分子病態(図4)やがん細胞の浸潤転移の仕組みも解析しており、この様な研究を通じて医学への貢献を目指しています。また、これらに関連して、細胞内タンパク質輸送のしくみ[5, 9, 10, 13]や記憶・学習の仕組み[1]等も日々研究しています。

図1
(図1) 神経細胞とシグナルの流れ
図2
(図2) 細胞内のシンガーの量を減らすと神経軸索形成に異常がおこり、複数の軸索(赤)ができます。
図3
(図3) シューティン(赤)が軸索や細胞のナビゲーションに重要な役割を果たします[2, 7, 8, 11, 12]。
図4
(図4) 最近、私たちが明らかにした軸索ナビゲーションの仕組みに破綻が起こると小児の神経難病(L1症候群)が発症することがわかりました[7]

主な発表論文・著作

  1. Kastian, R.F. et al., Cell Reports, 35, 109130, 2021
  2. Abe, K. et al., Biophys. J., 120, 3566-3576, 2021
  3. Minegishi, T. and Inagaki, N. Front Cell Dev Biol, 8, 863, 2020
  4. Urasaki, A. et al., Scientific Reports, 9, 12156, 2019
  5. Huang, L. et al., Scientific Reports, 9, 1799, 2019
  6. Minegishi, T. et al., Cell Reports, 25, 624-639, 2018
  7. Abe, K. et al., Proc. Natl, Acad. Sci. USA, 115, 2764-2769, 2018
  8. Baba, K. et al., eLife, 7, e34593, 2018
  9. Inagaki, N., and Katsuno, H., Trends. Cell Biol. 27, 515-526, 2017
  10. Katsuno H. et al., Cell Reports 12, 648-660, 2015
  11. Kubo Y. et al., J. Cell Biol. 210, 663-676, 2015
  12. Toriyama M. et al., Curr. Biol., 23, 529-534, 2013
  13. Nakazawa H. et al., J. Neurosci., 32, 12712-12725, 2012
  14. Inagaki N. et al., Dev. Neurobiol., 71, 584-593, 2011
  15. Toriyama M. et al., Mol. Syst. Biol., 6, 394, 2010
  16. Shimada T. et al., J. Cell Biol., 181, 817-829, 2008
  17. Toriyama M. et al., J. Cell Biol., 175, 147-157, 2006
  18. Inagaki N. et al., Nature Neurosci., 4, 872-873, 2001