NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

分子医学細胞生物学研究室の木田 和輝さん(博士後期課程3年)が「第4回リポクオリティ領域会議」において「Young Investigator Award 最優秀発表賞」を受賞しました。

分子医学細胞生物学研究室の木田 和輝さん(博士後期課程3年)が「第4回リポクオリティ領域会議」において「Young Investigator Award 最優秀発表賞」を受賞しました。

受賞のコメント

 新学術領域「脂質クオリティが解き明かす生命現象」の第4回領域班会議において「Young Investigator Award 最優秀発表賞」を受賞することができたことを大変光栄に思います。この賞を頂くことができたのも、指導教員の末次志郎教授をはじめとした先生方や、研究室の皆さまのご指導のおかげであると考えております。心より感謝申し上げます。この受賞を励みに、今後さらに研究を発展させて社会に貢献できるよう、一層身を引き締めて精進していきたいと思います。


(右から2人目が木田さん)

受賞内容

「リン脂質組成に依存するEndophilin A2 の膜切断活性」

 食生活とがんの関連は様々に知られており、例えば、動物性脂質に多い飽和脂肪酸に比べて、魚油などに多いドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のオメガ3と呼ばれる不飽和脂肪酸の摂取は、ある種の疾患の抑制に関連するといわれています。実際に、オメガ3合成酵素のfat-1を過剰発現するマウスでは、DHAやEPAの量が増加し、がんや心疾患などが生じにくくなっていることがわかっています。しかし、これらの脂肪酸が、がんなどのシグナル伝達にどのように関与しているか不明です。
 摂取された脂肪酸は、体内で吸収され、細胞を構成する生体膜、脂質膜へと取り込まれることで、主にリン脂質が細胞の膜である生体膜を構成します。リン脂質は、親水性の頭部が1つと、非極性である2つの脂肪酸により構成されます。通常、生体膜に含まれるリン脂質には様々な種類がありますが、今まで主にその分類は、親水性の頭部によってなされ、これまで、疎水性の脂肪酸を分類した研究は少ないままでした。
 Endophilin A2は、細胞表面に存在する増殖因子受容体などの細胞膜での量をエンドサイトーシスと呼ばれる仕組みで調節していることが知られています。エンドサイトーシスでは、細胞膜の一部が受容体を含んだまま切断(小胞化)されることで内在化されます。内在化は、細胞表面の受容体の量を調節し、増殖シグナルを制御します。従って、増殖因子から始まるがん形成のシグナル伝達の調節を行うと考えられます。しかし、脂肪酸の不飽和度とEndophilin A2によるエンドサイトーシスの関連は不明です。
 そこで、ある組織の親水性の頭部の脂質組成を元に、それぞれの親水性の頭部の脂質分子種が同一の脂肪酸を持つ合成脂質を用いて人工脂質膜を作成し、脂肪酸が膜切断活性(小胞化)に与える影響を調べました。その結果、ある特定の脂肪酸により構成された人工脂質膜でのみEndophilin A2は活性を持っていました。したがって、Endophilin A2による膜切断には、親水性の頭部の脂質組成の組み合わせだけでなく、脂質分子がそれぞれもつ脂肪酸の種類が重要であることを見出しました。
 本研究では、リン脂質分子の持つ脂肪酸の種類とEndophilin A2によるエンドサイトーシスの関連を明らかにします。この結果は、がんなどの疾患におけるエンドサイトーシスの調整機構の解明につながると考えられます。

【分子医学細胞生物学研究室】
研究室紹介ページ: http://bsw3.naist.jp/courses/courses210.html
研究室ホームページ: http://bsw3.naist.jp/suetsugu/

(2018年06月22日掲載)

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