研究成果

研究成果

バイオサイエンス研究科神経形態形成学研究室稲垣直之准教授らの研究グループが、神経細胞が軸索を伸ばすために細胞膜を広げる仕組み解明することに成功

 バイオサイエンス研究科神経形態形成学研究室の稲垣直之准教授、中澤瞳さん(博士後期課程)、情報科学研究科の杉浦忠男准教授、東北大学・生命科学研究科の福田光則教授らの研究グループは、神経細胞が軸索を伸ばすために細胞膜を広げる仕組みを解明することに成功しました。この成果は、平成24年9月12日付けのJournal of Neuroscience誌に発表され、その号の表紙を飾り、産業経済新聞、毎日新聞、奈良新聞、日刊工業新聞等に記事として取り上げられました。

中澤瞳さん(博士後期課程)のコメント

 今回の成果を発表することができたのは、稲垣直之准教授をはじめとする神経形態形成学の皆様の常日頃からの御協力、共著者の福田光則教授、杉浦忠男准教授、多胡憲治先生のおかげです。ありがとうございます。神経細胞の形態形成メカニズムの解明において、今回の研究が、今後の新たな展開に繋がることを期待したいです。(写真左)

稲垣直之准教授のコメント

 神経細胞は軸索という長い突起を伸ばして脳内で複雑なネットワークを形成します。軸索の長さは、ヒトでは1m近くにも伸びる場合があるのですが、そのためには細胞体で作った膜成分を軸索先端にどんどん輸送して細胞膜を広げなければなりません。例えば、東京スカイツリーを伸ばすために、地上で作った材料を先端に運んで組み立てる必要があるのと同様です。Rab33aは、本学博士前期課程修了生の佐田忠行君(第2著者)が、研究室で同定されたSingar1と相互作用する分子として着目したタンパク質で、その働きを中澤瞳さん(第1著者)が詳しく解析しました。今回、2人の頑張りが中心となって、軸索伸長の仕組みの一端が明らかになったことを嬉しく思っています。(写真右)

研究の概要

 脳内の神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を伸ばし、隣接する他の神経細胞と結合することで脳の活動に必要な情報ネットワークを作る。軸索を伸ばすために、神経細胞の表面積を広げなければならず、時には細胞体の表面積の1万倍にも達する。これまでに、細胞膜より回収された膜成分を軸索先端へリサイクルする仕組みは報告されていた。しかし、神経突起を伸長させるには細胞膜リサイクルだけでなく、細胞体で新たに作られた膨大な量の膜成分を供給することが必要不可欠であり、その仕組みはこれまでよくわかっていなかった。研究グループは、脳に存在し、細胞内で膜の輸送に関わるRabファミリーといわれるタンパク質の仲間の一つである機能未知のRab33aに着目して解析を行った。
 実験では、ラットの脳内の海馬にある神経細胞を培養して材料に使った。また、光って目印となるクラゲ蛍光タンパク質(GFP)等を遺伝子に組み込んで、軸索内における細胞膜成分やRab33aの動きをライブ観察した。また、軸索の先端で細胞膜成分が細胞膜に供給される様子は、SypHyという膜融合の際に光る蛍光タンパク質と全反射顕微鏡を用いて観察した。
 まず始めに、Rab33aの分布を調べた。神経細胞では、細胞膜の材料となる膜成分は細胞体にある小胞体とゴルジ装置で合成され、軸索内を先端まで輸送されて軸索の先端で細胞膜に供給されると考えられている(補足図1)。実験観察の結果、Rab33aはゴルジ装置から軸索先端に至る膜成分の輸送経路に沿って分布することがわかった(同1)。補足図2の顕微鏡写真では軸索先端にRab33a(緑色)が広がっていることが示されている。一方、エンドソームと呼ばれる細胞膜のリサイクルに関わる経路にはRab33aが見られなかった。
次に、ライブ観察で、Rab33aが制御する膜成分の移動と突起先端での膜成分の供給を顕微鏡で測定した。その結果、Rab33aの発現量を減らした神経細胞では、細胞体から軸索先端への膜成分の輸送量が減少し、膜成分の軸索先端の細胞膜への供給量も減少することがわかった。また、Rab33aの発現量を減らした神経細胞では、軸索の形成と伸長が抑制された。逆に、Rab33aの量を増やしすぎた神経細胞では、膜成分の突起先端への供給が過剰となった結果、複数の軸索が形成された。
 以上の結果から、Rab33aが、細胞体で新たに合成された細胞膜成分を軸索先端へ輸送し細胞膜に供給することによって、軸索の形成と伸長を起こすことが明らかとなった(補足図1)。

【図1】神経細胞が軸索を伸ばすために細胞膜を広げるしくみ。Rab33aは、細胞体の小胞体とゴルジ装置で新たに合成された膜成分を軸索先端へ輸送し軸索先端の細胞膜に膜成分を供給することで、軸索の細胞膜を広げてその形成と伸長を引き起こす。


【図2】軸索先端に見られるRab33a(緑)。軸索の先端は手のひらのような構造をしており、この図では右方向に進む。手のひらの甲にあたる部位は青色(微小管を染色)に見え、指にあたる部位は赤色(アクチン線維を染色)に見える。Rab33aが軸索の先端に顆粒状に広く分布していることがわかる。

(2012年10月03日掲載)

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