研究成果の紹介
バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の大津厳生助教が独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の平成24年度「イノベーション創出基礎的研究推進事業」技術シーズ開発型研究 若手研究者育成枠Aタイプ対象者に選ばれました。
バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の大津厳生助教が独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の平成24年度「イノベーション創出基礎的研究推進事業」技術シーズ開発型研究 若手研究者育成枠Aタイプ対象者に選ばれました。本助成は、基礎から応用まで一体的に推進することにより、革新的な技術の開発を促進し、生産性の飛躍的向上や農林水産物の高付加価値化等の生物系特定産業における諸課題の解決や革新的な技術の開発を促進するとともに、生物系特定産業の発展の可能性を広げる新たな事業の創出等のイノベーションにつなげることを目的としているものです。
生物系特定産業技術研究推進機構(BRAIN)のホームページ
http://www.naro.affrc.go.jp/brain/index.html
助成受託コメント
奈良先端大に着任して5年が経過しましたが、4人の学生(ナッタ君・仲谷豪君・佐々木翠さん・鈴木茉里奈さん)、井田慶子さん、森ヶ崎進博士とともに進めてきた研究成果に対し、さらなる期待を込めた支援をして頂くものです。また本研究課題の土台は、1996年から2006年までの10年間、ボスである高木博史教授が福井県立大学で多くの学生と共に築きあげた下支えがあったことを決して忘れてはなりません。システインプロジェクトが2007年から奈良先端大で再スタートし、高木先生から私へと上手くバトンが渡った結果であると思っています。これまでに多くの人達が出した成果に深く感謝するとともに、仲谷君・玉越さん、この分野で足跡を残せるような『発見』を一緒に目指しましょう!
助成受託テーマ
硫黄化合物の生理機能を利用したCys関連物質の発酵生産
ゲノム情報等の基盤的知見が蓄積された大腸菌を用い、細胞内のCys代謝経路やCysの生理機能に着目した独自の酸化ストレス耐性機構を解析し、得られた成果をCys発酵生産菌の育種に応用する研究に取り組んできました。その結果、大腸菌のCys生合成経路で未解明であったS-スルホシステイン(SSCS)からCysへ還元する酵素の同定に成功し、発酵生産への有用性を明らかにした(図1)1)。さらに、炭素源・窒素源における選択的な利用機構が微生物には存在するが、硫黄源における選択的な利用機構も存在することを見出している(図2)。また、研究代表者は、遊離のCysが細胞質とペリプラズムを、トランスポーターを介して循環しながらH2O2を消去するユニークな酸化ストレス防御機構を見出し、遊離のCysの生理機能を世界で初めて明らかにした2)。本研究では、研究代表者らの研究シーズをもとに、微生物によるグルコースからの直接発酵法によるCys生産性の向上を目指す。具体的には、これまで未解明であるCysの合成経路に着目し、生産性の向上をはかる。さらに、微生物の生育に必須な硫黄源の選択性を利用し、もっとも利用効率のよい硫黄源を選択することで発酵生産性および生産コストの削減を行う(図3)。また硫黄源の見直し・改善は、全ての微生物を用いた物質生産に応用可能であり、Cys以外の物質生産のモデルとしてメチオニン・グルタチオン発酵生産を例に有用性を評価し、日本の誇る発酵生産全般のコスト削減に貢献していく(図3)。また微生物による物質生産では、代謝のバランスが崩れ中間代謝産物が蓄積し、生産効率が低下することを防ぐ必要がある。特に硫黄化合物は反応性が高く、高濃度で細胞毒性を示すのはもとより、低濃度でもシグナル伝達物質として作用し、転写や代謝を撹乱する可能性がある。そこで、チオ硫酸を用いたCys生産において生じるSSCS、亜硫酸、硫化水素に着目し、これら硫黄化合物が生育や転写に及ぼす影響を解析し、得られた知見をCys発酵生産の向上に役立てる。硫黄の生理機能を活用した技術開発は、効率的なエネルギー産生の観点で新分野の創出に繋がる。
関連する論文
1. Takeshi Nakatani, Iwao Ohtsu*, Gen Nonaka, Natthawut Wiriyathanawudhiwong, Susumu Morigasaki, and Hiroshi Takagi: Enhancement of thioredoxin/glutaredoxin-mediated L-cysteine synthesis from S-sulfocysteine increases L-cysteine production in Escherichia coli. Microb. Cell Fact., 11, (2012).
2. Iwao Ohtsu¶*, Natthawut Wiriyathanawudhiwong¶, Susumu Morigasaki, Takeshi Nakatani, Hiroshi Kadokura, and Hiroshi Takagi: The L-cysteine/L-cystine shuttle system provides reducing equivalents to the periplasm in Escherichia coli. ¶These authors contributed equally to this work. J. Biol. Chem., 285, 17479-17487 (2010).
3. Natthawut Wiriyathanawudhiwong¶, Iwao Ohtsu¶, Zhao-Di Li, Hirotada Mori, and Hiroshi Takagi*: The outer membrane TolC is involved in cysteine tolerance and overproduction in Escherichia coli. ¶These authors contributed equally to this work. Appl. Microbiol. Biotech., 81, 903-913 (2009).
(2012年06月28日掲載)