NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

細胞情報伝達タンパク質を標的とした新規薬剤の作用機構を解明- 血栓の予防、抗腫瘍化作用へ期待 -

細胞内情報学講座の伊東広教授らのグループが、Gタンパク質に結合することで、シグナルの伝達を遮断する低分子化合物の立体構造と作用機構を世界で初めて明らかにしました。この成果は、朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞、奈良新聞、日刊工業新聞、日本経済産業新聞にも記事として取り上げられました。

プレスリリース詳細( 大学HP http://www.naist.jp/ 内コンテンツ )

伊東教授のコメント

研究って、新しい予期せぬことが判っておもしろい!本研究は、この4月より米国コーネル大学に留学した西村明幸博士研究員が大学院生の時より取組んでいたテーマの一つです。良い研究を行うという共通の認識のもと構造生物学講座の北野健助教と西村君が諦めずに粘り強く行ってくれた賜物です。箱嶋敏雄教授からは一方ならぬご支援・ご高配をいただきました。また、アステラス製薬の高崎淳博士、谷口昌要博士からは貴重なサンプルの提供のみならず有益なコメントをいただきました。また、播磨の放射光施設SPring-8に結晶を持って伺い限られた時間で何度も徹夜の実験をさせていただきました。その際、SPring-8の関係者の方々には大変お世話になりました。これらの方々に心からお礼申し上げます。文部科学省、大学、研究科、研究室の多くの関係者の方に支えられています。この場をお借りして感謝申し上げます。

研究においてよく例えられることですが、一つの頂きに到達するとさらにその上にもっと大きな壮大な山が見えてきます。本研究成果を通過点として、さらなる発展に向け、若い研究室員と一緒に途中の景色を楽しみながら研究を進めていきたいと思っております。今後ともご指導、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

掲載論文

Nishimura A, Kitano K, Takasaki J, Taniguchi M, Mizuno N, Tago K, Hakoshima T, and Itoh H. Structural basis for the specific inhibition of heterotrimeric Gq protein by a small molecule. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107: in press (2010)
http://www.pnas.org/content/early/2010/07/13/1003553107.abstract

研究の概要

Gタンパク質はホルモン、神経伝達物質、細胞増殖因子、光、匂い、味物質など数多くの細胞外のシグナルを細胞内に伝達する。その仕組みは、シグナルを細胞膜表面にあるGタンパク質共役受容体が受け取ることにより、連結したGタンパク質が活性化され、細胞内部に向けて新たなシグナルとして伝達される(図1)。

Gタンパク質共役受容体はヒトでは1000種類ほど存在し、この受容体をブロックすれば過剰な情報に反応しなくなり、逆に足りない情報を補ったりすると病気の治療につながることから、今日使用されている治療薬の半分近くが、これを標的分子にしている。さらに、Gタンパク質がGタンパク質共役受容体により調節されるため、Gタンパク質も新規薬剤の標的分子となる可能性を持っている。しかし、これまで選択的に特定のGタンパク質を阻害する低分子化合物およびその結合部位の立体構造はまったく明らかにされておらず、新薬開発の障害になっていた。

伊東教授らは本学情報科学研究科の箱嶋敏雄教授、北野健助教およびアステラス製薬と共同して、世界で初めてGタンパク質と結合してシグナルを遮断する低分子化合物と、Gタンパク質と結合してできる複合体の立体構造を解き明かした(図2)。本研究成果は、新たな治療薬の開発へのブレークスルーとなるとともにGタンパク質の活性化機構をひも解く上でも大変重要な情報を提供することから1994年のノーベル医学生理学賞を「Gタンパク質の発見と機能解明」で受賞したアルフレッド・ギルマン教授(米国テキサス大学)が編集者となって論文が掲載された。


図1 Gタンパク質を介するシグナル伝達


図2 Gタンパク質とYM-254890 (青) 複合体の構造

(2010年07月13日掲載)

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