研究室・教員

分子情報薬理学 (伊東研究室)

伊東広教授の顔写真
教授
伊東 広
助教
小林 哲夫、梶 紀子
Email
{ hitoh, kobayt, nkaji }@bs.naist.jp
研究室HP
http://bsw3.naist.jp/itoh/

研究・教育の概要

ヒトの身体は60兆個の細胞、その集合体である組織、器官から構成され、それらの連携により生命活動が維持されています。ホルモン、神経伝達物質、細胞増殖・分化因子などによって多彩な細胞応答が引き起こされますが、応答にいたるシグナル伝達経路は複雑なネットワークを形成しています。一方、種々の疾患においてシグナル伝達系の異常が見出され、またシグナル伝達系の構成因子を標的とする薬剤が数多く用いられています。本研究室では、シグナルを受けた細胞の応答の分子機構の解明、および神経疾患、癌その他の疾患の病因究明と、その治療へ向けた研究を進めています。

主な研究テーマ

Gタンパク質共役受容体を介するシグナル伝達機構

Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)はαβγの3つのサブユニットより成る3量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質)を活性化し、細胞内へシグナルを伝達します(図1)。GPCRを介するシグナルは、神経系、内分泌代謝系、免疫系、個体形成など、様々な生体を統合するシステムに必須の機構です。しかしGPCRシグナルの制御機構およびその生理機能において不明な部分が多く残されています。新規GPCRシグナル制御分子の同定と機能解析から、シグナルの構成因子を標的とした創薬への発展を目指しています。

神経幹細胞の自己複製と分化、遊走の制御機構

神経細胞、グリア細胞のいずれにも分化できる神経幹細胞の自己複製、分化、遊走のメカニズムなど多くのことが不明です。神経幹細胞および脳切片の培養系とタイムラプズ蛍光顕微鏡を用いて分子の動態を詳細に解析し、神経発生過程におけるダイナミックな分子制御の解明に取り組んでいます(図2)。

抗体を用いたオーファンGPCRの活性化機構および機能の解析

ゲノム上1000近くあるGPCRのうち100種類が未だ生体内のリガンドが不明なオーファン(孤児)受容体です。私共はオーファンGPCRに対する抗体を作成し、細胞応答を惹起するアゴニストのように働く抗体、また癌細胞あるいは神経幹細胞の遊走を阻害する抗体を得ました(図3)。リガンドの探索とともに、それらの抗体を用いてオーファンGPCRの機能解析と抗体医薬への展開を目指した研究を進めています。

一次繊毛の形成メカニズムと細胞機能の解析

ほぼ全ての哺乳動物細胞に存在する一次繊毛は、細胞外のシグナルを受容するアンテナとして機能し、その破綻が多くの疾患を惹き起こします。しかし、一次繊毛の形成・機能を制御する分子メカニズムは殆ど分かっていません。この課題に取り組むことで、将来的な疾患治療への展開を目指しています。

上皮形態形成を制御するシグナル伝達機構の解析

上皮組織は器官の表面を覆う組織で、発生過程において管状や嚢胞状の複雑な形態へと変化します。このような上皮組織の形態形成には細胞の増殖、移動、接着、極性形成などの様々な過程が厳密に制御される必要がありますが、その分子メカニズムには不明な部分が多く残されています。上皮組織の破綻はがんの浸潤・転移とも密接に関連しており、上皮形態形成の分子機構を明らかにすることで新たながん治療法の開発を目指したいと考えています。

Gタンパク質共役受容体を介するシグナル伝達の模式図
(図1) Gタンパク質共役受容体を介するシグナル伝達
神経前駆細胞におけるGタンパク質/リン酸化シグナルによる細胞骨格のダイナミックな動態変化をとらえた蛍光顕微鏡写真
(図2) 神経前駆細胞におけるGタンパク質/リン酸化シグナルによる細胞骨格のダイナミックな動態変化
オーファンGPCRに対する機能性抗体の作成とシグナル伝達の解析および抗体医薬への展開
(図3) オーファンGPCRに対する機能性抗体の作成とシグナル伝達の解析および抗体医薬への展開

主な発表論文・著作

  1. Kobayashi T. et al., EMBO Rep., e201541922, 2016
  2. Ohta S. et al., Biol. Pharm. Bull., 38, 594, 2015
  3. Kobayashi T. et al., J. Cell Biol., 204, 215, 2014
  4. Jenie RI. et al., Genes Cells, 18, 1095, 2013
  5. Toriyama M. et al., J. Biol. Chem, 287,12691, 2012
  6. Kobayashi T. et al., Cell, 145, 914, 2011
  7. Kobayashi T. et al., J. Cell Biol., 193, 435, 2011
  8. Nishimura A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 13666, 2010
  9. Tago K. et al., J. Biol. Chem, 285, 30622, 2010
  10. Nagai Y. et al., J. Biol. Chem, 285, 11114, 2010
  11. Nakata A. et al., EMBO Rep., 10, 622, 2009
  12. Mizuno N. & Itoh H., Neurosignals, 17, 42, 2009
  13. Iguchi T. et al., J. Biol. Chem, 283, 14469, 2008
  14. Urano D et al., Cell Signal, 20, 1545, 2008
  15. Sugawara et al., Cell Signal, 19, 1301, 2007
  16. Nishimura A. et al., Genes Cells, 11, 487, 2006
  17. Mizuno N. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 12365, 2005
  18. 伊東 広, 他, 生化学, 85, 531, 2013
  19. 伊東 広, 実験医学, 31, 382, 2013