研究成果

研究成果

生物の形がつくられる基本ステップ「対称性の破れ」世界で初めて仕組みを神経細胞で解明 - 再生医療への応用期待 -

細胞内情報学講座の稲垣直之准教授、鳥山道則研究員及び情報科学研究科論理生命学講座の作村諭一特任准教授らの研究グループは、生命科学と情報科学の手法を組み合わせて、神経細胞の形が自発的に対称性を破る仕組みを世界で初めて解明することに成功しました。この成果は、Molecular Systems Biology誌の”Featured article”に選定され、朝日新聞、科学新聞、日本経済産業新聞、読売新聞、日刊工業新聞、産業経済新聞、毎日新聞に記事として取り上げられました。

プレスリリース詳細( 大学HP http://www.naist.jp/ 内コンテンツ )

稲垣准教授のコメント

【写真】稲垣准教授の記者会見の様子
稲垣准教授の記者会見の様子
生物の形づくりの問題は複雑で解析が容易ではないのですが、「対称性の破れ」はその素過程と考えられます。また、培養神経細胞の対称性の破れは、形態変化を数値化しやすく分子の挙動をライブで測定しやすいという利点がありました。そこで「シューティン」というキーとなる分子に研究対象を絞って、計測データのみからなる厳密なモデルを構築してその原理の解明を目指しました。今回の様な融合研究を進めるには、研究者間に双方向の「正のフィードバックループ」連携を構築することが大切で、作村諭一先生、鳥山道則君と緊密なフィードバックループを築くことができたことを感謝いたしております。また、本研究は長年にわたって多くの方々のサポートを受けてきました。篤く御礼を申し上げます。今後も生物の形の美しさに畏敬の念を感じつつ、研究が発展するよう努力を続けたいと思います。

作村特任准教授のコメント

【写真】作村特任准教授の記者会見の様子
作村特任准教授の記者会見の様子(写真手前)
ようやく形にできたことを嬉しく思います。分野融合の研究が言葉の通りできたと自負しております。これまでの様々な苦労は本当に大変でしたが、得るものも大きい研究でした。本研究は、既存概念の組み合わせで現象を「模倣する」モデルではなく、あくまで「リアルから新規概念の創出」をするためのモデルを目標としました。実際に、本研究のモデルを数理的に解析・解釈し、新規メカニズムの抽出ができました(論文準備中)。また、モデルによる予見を検証する実験が開始されています。こうした複数の研究テーマへの展開は計画通りですが、予想以上に面白くなってきています。これからも頑張りたいと思います。

掲載論文

Toriyama, M., Sakumura, Y., Shimada, T., Ishii, S. and Inagaki, N. (2010) A diffusion-based neurite length-sensing mechanism involved in neuronal symmetry breaking. Mol Syst Biol 6, 394.

研究の概要

生物は成長に伴い、単純で対称な形から、次々と複雑で特徴的な形を生み出す。「対称性の破れ」は対称な形が非対称に変わることで、生物の形が発生や再生の過程で次々と複雑になるための重要なステップと考えられているが、その仕組みは大きな謎とされてきた。培養神経細胞は、初めは複数の短い突起をもつ対称な形をしているが、成長の過程で自発的にその中の1本の突起が長く伸びて対称性が破れる(図1)。研究グループは4年前に神経細胞の対称性の破れの鍵となる突起を伸ばすタンパク質「シューティン」を発見しており、今回は、このタンパク質を手掛かりに神経細胞に見られる典型的な自発的対称性の破れに着目して仕組みを解析した。

まず、GFP等を用いてシューティンの神経細胞内の動きを顕微鏡でライブ測定した。その結果、1. 神経細胞の対称性の破れに伴うシューティンの細胞内量の急激な増加、2. 偶然な揺らぎを伴ったシューティンの突起先端への輸送、3. 突起先端から細胞体へ戻る受動拡散、4. 突起先端のシューティンの量の増加に伴う突起伸長という4つの鍵となる現象を明らかにした。

また、得られた測定データから4つの現象を表す方程式を導き出し、コンピュータで方程式を結合して神経細胞の形の変化をシミュレーションするモデルを構築した。その結果、モデルは神経細胞と同じように自発的に対称性の破れを起こした。さらに、このモデルによって得られた15のシミュレーション結果の全てが実験データで検証された。このことから、神経細胞の自発的対称性の破れがシューティンの4つの細胞内の動きで説明できることが証明された。

以上の研究から、神経細胞がシューティンの細胞内輸送と拡散という現象を通じて、突起の長さという「形の情報」をシューティンの量という「分子シグナル」に変換する新しい仕組みが明らかとなった。さらに、この仕組みにより突起の長さとシューティン量の偶然な揺らぎを増幅する正のフィードバックの連携が生じて(図2A)、対称性を自発的に破ること(図2B)が分子レベルで証明された。


【図1】神経細胞は1本の突起が長く伸びて自発的に対称性が破れる。


【図2】神経細胞の自発的対称性の破れの仕組み。
A)突起先端にシューティンが濃縮すると突起が長くなる。一方、突起が長くなるとシューティンが突起先端に濃縮しやすくなるので、突起先端のシューティン量と突起の長さとの間には正のフィードバックループが生成される。
B)細胞内のシューティンが増加すると、突起の長さと突起先端のシューティン量が揺らぎだし、神経細胞の対称性が不安定になる(中央図)。偶然、1つの突起のシューティン量が他の突起よりも多くなると、その突起のシューティン量と突起の長さが正のフィードバックループで増幅されて対称性が破れる(右図)。

(2010年08月09日掲載)

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