NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

植物が根の表面から『毛』を伸ばす仕組みを発見!

植物が根の表面から『毛』を伸ばす仕組みを発見!

金沢大学理工研究域生命理工学系の高塚大知助教,奈良先端科学技術大学院大学の梅田正明教授らの研究グループは,植物が根の表面に形成される毛状の細胞である『根毛』を長く伸ばす仕組みを解明しました。

植物の根の表面に見られる毛状の細胞である「根毛」は,根全体の表面積の50%以上を占めます。根毛が伸びると根の表面積が増えるため,水分・養分の吸収効率が高まります。従って,この『毛』の長さを決める仕組みの解明は,近年,世界的に喫緊の課題となっている,異常気象に起因する作物の生育不良に対処する上で重要な知見となります。今回,本研究グループは,植物ホルモンの一つであるサイトカイニン(※1)が,根毛細胞内で,サイトカイニン応答を引き起こす中心因子であるARR1およびARR12タンパク質の活性を高め,根毛伸長の鍵因子であるRSL4遺伝子を活性化することで,根毛長を増大させることを明らかにしました。

当研究グループは,2018年に,根毛を作る細胞以外の根の細胞でサイトカイニンが細胞伸長を制御する仕組みを解明するなど,植物細胞の伸長現象について多角的に研究を進めています。これまでの研究成果と合わせて,本研究成果は,変動する環境下で安定した植物バイオマス生産を実現する技術開発につながり,SDGs17の目標のうち,「2:飢餓をゼロに」「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「15:陸の豊かさも守ろう」に貢献することが期待されます。

本研究成果は,2023年3月13日に国際学術誌『Journal of Experimental Botany』のオンライン版に掲載されました。

【研究の背景】
植物は動物と異なり,移動することができないため,地中に張り巡らした根から成長に必要な物質を取り込みます。従って,「根の表面積を増やすこと」は,水分・養分の吸収効率を高めるうえで,極めて重要です。根の表面積を決める主要因の一つが,『根毛の長さ』です。根毛は,一般に全長数百µm~数 mm程度に成長する毛で,一つの細胞が根の外側に突起を作って伸ばすことで形成されます。根毛は根の表面から多数形成されるため,根全体の表面積の50%以上を占めます。先行研究により,根毛は,不良土壌において,根だけでなく茎や葉など,植物体全体の成長を持続するのに必須の働きを持つことが報告されています。つまり,根毛細胞の長さを制御する仕組みを明らかにし,それを人為的に制御することで,水分・養分が十分でない貧栄養土壌においても,安定した植物バイオマス生産が可能になると期待されます。

「サイトカイニン」は植物ホルモンの一種であり,植物の様々な発生過程において,環境の変化を検知して植物の成長をコントロールする役割を担うことが知られています。従って,変動する環境に応答して長さを変える根毛の制御においても,サイトカイニンが重要な役割を担っていることが予想されます。実際,先行研究で,サイトカイニンの根毛伸長に関与することを示唆する報告がなされてきました。しかし,その詳細な分子メカニズムは不明でした。

【研究成果の概要】
本研究グループは,サイトカイニンの根毛長に対する役割を分析する中で,モデル植物のシロイヌナズナにサイトカイニンを外的に投与すると,根毛長が50%程度増大することを見出しました(図1)。一方,サイトカイニンに対しての応答性が低下した変異体(サイトカイニン受容体であるAHK3およびAHK4を欠損した二重変異体,およびサイトカイニン応答を引き起こす実働因子として働くARR1,ARR12転写因子を欠損した二重変異体)では,野生型植物よりも根毛長が短く,また,サイトカイニンを投与しても野生型植物で起こる根毛長の増大が全く起こらなくなることを発見しました(図2)。これは,AHK3とAHK4によって受容されたサイトカイニンが,ARR1とARR12の働きを活性化することで,根毛の伸長を促進することを示します。

ARR1およびARR12は遺伝子発現を制御する転写調節因子として機能するので,ARR1とARR12は何らかの遺伝子の発現を制御することで,根毛の伸長を促進することが予想されました。そこで,その標的遺伝子を特定するため,マイクロアレイ法(※2)を用いて,arr1/12二重変異体でどのような遺伝子の発現が変動しているかを調べました。その結果,arr1/12二重変異体では野生型に比べ,根毛の伸長に重要な働きを持つRSL4遺伝子の発現が低下していることが分かりました(図3)。また,野生型植物で観察されるRSL4遺伝子のサイトカイニン応答が,arr1/12二重変異体では殆ど起こらなくなることも見出しました(図3)。これらの結果は,サイトカイニンがARR1とARR12を介してRSL4遺伝子の発現を誘導することで,根毛伸長を促進することを示します。

サイトカイニンは,オーキシンやエチレンといった別種の植物ホルモンと関わりを持ちながら,植物の様々な発生過程を制御することが知られており,この根毛伸長の制御においても,サイトカイニンがオーキシンやエチレンを何らかの形で制御することでRSL4遺伝子の発現を誘導している可能性が考えられました。そこで,エチレン応答が低下したein3 eil1二重変異体,およびオーキシン応答が低下したaxr2変異体にサイトカイニンを投与しました。その結果,これらの変異体では野生型と同程度のRSL4遺伝子の発現増加が見られました。つまり,サイトカイニンは,エチレンやオーキシンを介さない独自の経路で,RSL4遺伝子の発現を制御することが示されました。この点をより詳細に検証するため,ChIP-qPCR法(※3)により,ARR1がRSL4遺伝子の発現制御領域に結合するかを調べました。その結果,ARR1はRSL4遺伝子の上流に存在する特定の塩基配列に特異的に結合することが明らかになりました。これは,サイトカイニンがエチレンやオーキシンといった他の植物ホルモンの助けを借りずに,RSL4遺伝子の発現を直接的に制御する働きを持つことを示す発見です。

以上の知見から,サイトカイニンが今まで知られてなっていなかったシグナル伝達経路を活性化することでRSL4遺伝子の発現を誘導し,根毛伸長を促進して根の表面積を増大させることが明らかになりました。

【今後の展開】
本研究で明らかになった知見をもとに,根の表面積を人為的に増大させ,不良土壌でも安定したバイオマス生産を実現する技術開発が現実味を帯びてきました。サイトカイニンは根毛の伸長を促す一方で,根そのものの伸長は抑制する働きを持ちます。例えば,サイトカイニン応答性が低下したarr1/12二重変異体は,根毛は短いですが,根そのものは野生型よりも長く伸びます。この性質を利用し,根毛以外の細胞ではarr1/12を欠損させることで根全体の成長を活性化させる一方で,根毛細胞で特異的にARR1やARR12を過剰に産生させることで,根毛長も増大させ,根の表面積を劇的に増加させたスーパー植物の作出が可能になると期待されます。今後は,これを実現するため,ARR1やARR12がどのような因子と関わりながら機能しているか,根毛細胞内での遺伝子ネットワークの全貌を明らかにすることが必要となります。

近い将来,本研究の知見を起点に,『根の表面から生える毛』に着目した研究をさらに推し進めることで,世界レベルで拡大を続ける耕作不可能地で植物バイオマスを生産できる技術の開発が可能となり,食糧問題・環境問題の解決に大きく貢献することが期待されます。

本研究は,科学研究費助成事業(新学術領域研究17H06470, 17H06477, 基盤研究(A) 21H04715, 基盤研究(C) 22K06293),国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「細胞の動的高次構造体」(研究総括:野地博行,JPMJPR22E6),文部科学省卓越研究員事業,金沢大学・自己超克プロジェクト,金沢大学・先魁プロジェクト2022の支援を受けて行われました。


図1: サイトカイニン投与による根毛伸長の促進効果

サイトカイニンを投与していない個体(なし)と投与した個体(あり)の根の写真(左:根の全体の様子,右:根毛の拡大図)。投与した個体では,根毛の伸長速度が大きく(青線),最終的な根毛の長さも長い。スケールバーは500 µm。


図2: arr1/12二重変異体では根毛が短くなる

サイトカイニン応答を誘導する転写因子であるARR1とARR12の機能を欠損した二重変異体の根毛の様子。野生型植物に比べ,根毛が短い。また,野生型で見られるサイトカイニン投与による根毛長増大も殆ど起こらない。スケールバーは100 µm。


図3: サイトカイニンはARR1, ARR12を介してRSL4遺伝子の発現を誘導する

RSL4遺伝子の発現調節領域にGUS遺伝子を融合したレポーター遺伝子を,野生型植物とarr1/12二重変異体に導入した根の様子。青い染色が濃いほど,根毛細胞でRSL4遺伝子が強く発現していることを示す。arr1/12ではサイトカイニンを投与しても,RSL4遺伝子の顕著な発現増加が起こらない。スケールバーは500 µm。

【掲載論文】
雑誌名:Journal of Experimental Botany

論文名:Cytokinin signaling promotes root hair growth by directly regulating RSL4 expression
(サイトカイニンはRSL4の発現を直接制御することで根毛の成長を促進する)

著者名:Hirotomo Takatsuka, Anna Sasaki, Naoki Takahashi, Michitaro Shibata, Keiko Sugimoto, Maho Tanaka, Motoaki Seki and Masaaki Umeda(高塚大知,佐々木杏奈,高橋直紀,柴田美智太郎,杉本慶子,田中真帆,関原明,梅田正明)

掲載日時:2023年3月13日にオンライン版に掲載
DOI:10.1093/jxb/erad091

【用語解説】
※1 サイトカイニン
 植物ホルモンの一種。サイトカイニンは膜上の受容体(AHK3, AHK4など)により感知され,そのシグナルが転写因子(ARR1, ARR12など)に伝達され,様々な遺伝子発現を活性化する。

※2 マイクロアレイ法
 数万から数十万に区切られた基板の上に固定された遺伝子断片と,細胞から抽出したmRNAを逆転写酵素でcDNAに変換したものをハイブリダイズすることによって,細胞内で発現している各遺伝子の量を網羅的に検出する手法。

※3  ChIP-qPCR法
 クロマチン免疫沈降(タンパク質とDNAの結合を架橋した後に,目的のタンパク質に特異的な抗体を用いて免疫沈降を行い,そのタンパク質と結合するDNA配列を共沈させる)で得られたDNAを,定量的PCR(qPCR)を用いて定量することにより,ゲノム上の特定の部位におけるタンパク質-DNA相互作用の有無を定量的に評価できる手法。

【植物成長制御研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses105.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/umeda/

 

 

(2023年04月05日掲載)

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