NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

細菌の細胞壁の部品となる脂質IIを輸送する輸送体の新しいかたち(スクイーズド型)の発見

細菌の細胞壁の部品となる脂質IIを輸送する輸送体の新しいかたち(スクイーズド型)の発見

【概要】
 真正細菌の細胞壁ペプチドグリカンは、細胞の形態を維持する役割を持ち、抗生物質の耐性とも関わりがあります。ペプチドグリカンの合成には、細胞質で合成される脂質II(Lipid II)が必要であり、MurJフリッパーゼにより細胞質からペリプラズム側へフリップ輸送されます。

MurJは、過去の研究により細胞質側もしくは、ペリプラズム側にV字型に開いた構造(図1)を取り、これら2つの状態を交互に繰り返すというダイナミックな構造変化を伴いながら基質を輸送するとされています。それぞれInward-facing 型(内向き型)、Outward-facing 型(外向き型)と呼ばれ、これらの詳細構造のみが報告されていましたが、これらの構造変化過程の詳細は不明でした。

図1 MurJの詳細構造

 我々は、Inward型、Outward型のどちらでもない特徴を持つ大腸菌MurJの結晶構造を決定しました。Inward型、Outward型ではCentral cavityと呼ばれる基質を内包する空洞を持ちますが、今回決定した構造では構造体の内部に基質を内包しうる空間を持ちませんでした(図1)。本構造は潰れた空き缶のような形状に類似していたため、我々はSqueezed 型と名付けました。これまでに行われた生化学解析データや、共同研究での分子動力学シミュレーションにより、Squeezed 型は、基質輸送後のOutward型からInward型への構造変化過程を示す可能性が示唆されました(図2)。


図2 基質輸送後のOutward型からInward型への構造変化の中間状態であるSqueezed 型

 発表論文では、基質の輸送過程で膜貫通ヘリックスであるTM2とTM8間の相互作用が基質の逆流を防ぐ可能性や、Outward 型からSqueezed型への構造変化にはTM7の柔軟性が重要であることなど、これらの構造変化を詳細に解説しています。MurJは大腸菌の生育に必須であるため、MurJをターゲットとする抗菌ペプチドとの構造解析や生化学的な解析を進め、MurJが関わる生体内分子メカニズムを明らかとしていきます。

【掲載論文】
論文タイトル:"Crystal structure of the lipid flippase MurJ in a "squeezed" form distinct from its inward- and outward-facing forms"(内向き型でも外向き型でもない脂質フリッパーぜ MurJ のスクイーズド型の結晶構造)

Hidetaka Kohga, Takaharu Mori, Yoshiki Tanaka, Kunihito Yoshikaie, Katsuhide Taniguchi, Kei Fujimoto, Lisa Fritz, Tanja Schneider and Tomoya Tsukazaki
(甲賀 栄貴、森 貴治、田中 良樹、吉海江 国仁、谷口 勝英、藤本 圭、Lisa Fritz、Tanja Schneider、塚崎 智也)

Structure, 30, 1088-1097, (2022), DOI: 10.1016/j.str.2022.05.008

【構造生命科学研究室】
https://bsw3.naist.jp/courses/courses309.html
https://bsw3.naist.jp/tsukazaki/

(2022年08月12日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook