NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス領域ストレス微生物科学研究室の高木博史教授が公益財団法人飯島藤十郎記念食品科学振興財団の「2020年度 飯島藤十郎食品科学賞」を受賞

令和3年3月11日付けで、バイオサイエンス領域ストレス微生物科学研究室の高木博史教授が公益財団法人飯島藤十郎記念食品科学振興財団の「2020年度 飯島藤十郎食品科学賞」を受賞しました。飯島藤十郎食品科学賞は、食品科学、特に米麦その他の主要食糧などを原料とする食品の素材、加工技術、品質、安全性、栄養、機能その他に関する学術上の研究に優れた業績が認められる活躍中の研究者に授与されます。授賞式は令和3年4月19日に開催されました。

公益財団法人飯島藤十郎記念食品科学振興財団ホームページ:
http://www.iijima-kinenzaidan.or.jp/
http://www.iijima-kinenzaidan.or.jp/pdf/2020achievement_4.pdf

【受賞課題名】

製パンプロセスにおける酵母のストレス耐性機構の解析と育種への応用に関する研究

【受賞コメント】

 この度は栄誉ある「飯島藤十郎食品科学賞」をいただき身に余る光栄です。受賞対象の研究は福井県立大学および本学で行われたものであり、ご協力いただいた研究室の教員、スタッフ、学生、および(独)農研機構食品総合研究所、オリエンタル酵母工業(株)、テーブルマーク(株)をはじめ多くの産官学共同研究の皆様に心よりお礼申し上げます。
 今回の受賞対象となった研究は、私たちが酵母に見出した3つのストレス耐性機構(プロリン・アルギニン代謝、ユビキチンシステム、ストレス関連転写因子)をパン酵母の高機能開発に応用した研究成果を纏めたものです。パン酵母は、製パン過程において乾燥、冷凍、高糖等のストレスに曝され、有用機能(炭酸ガスの発生、味・風味物質の生成など)の発現が制限されています。従って、パン酵母に高度なストレス耐性を付与することで、耐久性の強い「ドライイースト」、長期保存可能な冷凍生地や菓子パン生地に適した「冷凍耐性イースト」「高糖耐性イースト」などの開発が可能になります。
 私はかつて食品企業の研究所で「コンビニエンスストア向け冷凍パン生地」の製造に関わりましたが、評価用に作製した焼き立てパンを皆が美味しそうに食べる光景を鮮明に覚えています。その後大学に異動しましたが、その時に感じた幸せな気持ちを思い出し、酵母の細胞が冷凍などのストレスに適応する機構に関する研究を始めました。食生活が豊かになった現在、製パン業界や消費者のニーズに応えるためには、酵母のストレス耐性を飛躍的に向上させることが必要です。しかしながら、遺伝子組換え技術によって育種した酵母は、依然として実用化が困難な状況です。今後は「酵母のアミノ酸代謝に基づくストレス耐性機構」をベースに、遺伝子組換え技術に頼らずに「ストレス耐性パン酵母」を作製し、実用化を目指したいと考えています。

【受賞内容】

パン酵母(多くはSaccharomyces cerevisiae)は、製パン過程において乾燥、冷凍、高糖等のストレスに曝されており、有用機能(炭酸ガスの発生、味・風味物質の生成等)が制限されている。従って、パン酵母に高度なストレス耐性を付与することで、耐久性の強い高品質「ドライイースト」、長期保存可能な冷凍生地や菓子パン生地に適した「冷凍耐性イースト」「高糖耐性イースト」等の開発が可能になる。これまでに、実験室酵母(モデル酵母)を用いて細胞の新しいストレス耐性機構を解析し、パン酵母等の産業酵母の育種への応用に取り組んできた。
1.プロリン・アルギニン代謝を介した酸化ストレス耐性機構
 細胞内にプロリン(Pro)を蓄積する変異株を解析し、冷凍、乾燥等のストレスに耐性を示すこと、γ-グルタミルキナーゼPro1にAsp154Asn, Ile150Thr等のアミノ酸置換が導入されると、Proによるフィードバック阻害感受性が低下し、Proが過剰合成されることを明らかにした。また、Proの生理機能を解析し、ストレスに伴い上昇する活性酸素種(ROS)レベルの制御、細胞寿命の延長効果等を見出した。さらに、Proを蓄積するパン酵母をセルフクローニング法や突然変異法で作製し、冷凍生地、高糖生地、乾燥酵母における発酵力の向上に成功した。また、Proとアルギニン(Arg)代謝を連結する新規なアセチル化酵素Mpr1がROSレベルを制御し、ストレスから酵母を保護することを見出した。さらに、パン酵母におけるMpr1の機能を解析し、Mpr1が発酵力に寄与すること、熱安定性が向上したMpr1変異体(Phe65Leu, Asn203Lys)により乾燥耐性が向上することを明らかにした。
2.ユビキチンシステムによるストレス下におけるタンパク質の品質管理機構
 様々なストレスに感受性を示す酵母の変異株を解析し、ユビキチン(Ub)リガーゼRsp5がストレス下のタンパク質品質管理に関与するモデルを提唱した。これまでに、高温やエタノール等のストレス下で、Rsp5がストレス関連転写因子の発現制御を介してストレスタンパク質の発現を調節し、タンパク質の修復に関与すること、細胞質タンパク質(Egd2, Pda1)や細胞膜タンパク質(アミノ酸パーミアーゼGap1等)をUb化し、分解を促進することを明らかにした。パン酵母においては、冷凍後も高い発酵力を維持する仕組みとして、Ub-プロテアソーム系が冷凍により変性したタンパク質の分解に寄与することを見出し、育種への応用を進めている。
3.転写因子の人為的な発現調節によるストレス耐性の向上
 転写因子にも着目し、機能解析やパン酵母の高機能化を行ってきた。酸化ストレス応答に重要なMsn2の過剰発現により冷凍後の発酵力が向上した。また、Rsp5変異株のストレス感受性を相補する多コピー抑制因子として単離したPog1の過剰発現や遺伝子破壊により、高糖や冷凍等のストレス下における発酵力が向上した。

【ストレス微生物科学研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses305.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/takagi/

(2021年05月06日掲載)

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