研究成果の紹介
構造生命科学研究室の竹内 梓さん(博士前期課程2年)が第15回トランスポーター研究会年会において「優秀口頭発表賞」を受賞
構造生命科学研究室の竹内 梓さん(博士前期課程2年)が第15回トランスポーター研究会年会において「優秀口頭発表賞」を受賞しました(令和2年10月16日)。
受賞のコメント
まず初めにオンラインでの年会を開催していただいた第15回トランスポーター研究会実行委員の先生方に厚く御礼申し上げます。また、塚崎教授をはじめ研究室の皆様からは熱い指導を頂きました。今回の受賞は、共同研究者の先生、先輩方による貴重な実験データの積み重ねの賜物です。修士課程の2年間ではとても成し遂げられないような成果を、先輩から引き継いできた一研究結果として発表することができ、大変嬉しく思います。トランスポーターの研究に携わる一流の研究者の皆様と交流することができた、この経験を糧に、自身のさらなる成長に繋げたいと思っています。
受賞内容
「細菌由来の新奇チオ硫酸イオン輸送体 YeeE の構造機能解析」
○竹内 梓、田中 良樹、吉海江 国仁、市川 宗厳、森 智行、内野 清香、菅野 泰功、箱嶋 敏雄、高木 博史、野中 源、塚崎 智也(○口頭発表者)
環境中の硫黄は、有機化合物に含まれる他、様々な酸化数の無機硫黄化合物として存在しています。細菌や植物は無機硫黄を取り込み、利用する代謝経路を有しています。これまで細菌では細胞内へ硫黄(硫酸イオン・チオ硫酸イオン)を輸送するABCトランスポーターがその役割を担っていることが知られていました。このイオン輸送体を欠損させた大腸菌を用いた研究から、グラム陰性細菌の機能未知タンパク質であるYeeEがチオ硫酸イオン輸送能を有することを見出しました。次に、多数のYeeEホモログを対象にX線結晶構造解析を行ったところ、最終的にSpirochaeta thermophila 由来YeeEの構造を2.5オングストローム分解能で決定しました。YeeEはタンパク質全体が膜に埋まった状態の9本の膜貫通αヘリックスとループからなる砂時計型の構造であり,新規フォールドでした。また、分子内疑似222対称を形成している特徴がありました。チオ硫酸は細胞外の正電荷を帯びた凹みに位置しており、その結合部位周辺に保存されたシステイン(Cys)残基が存在していたため、これらアミノ酸残基の重要性を検討しました。まず、チオ硫酸が単一硫黄源の場合に生育できない大腸菌の変異株に野生型YeeEをプラスミドから発現させたところ、単一硫黄源がチオ硫酸の場合でも生育できることを確認しました。次に、近縁の菌種間で保存性の高いアミノ酸残基を中心に、1アミノ酸残基置換体を作製し、形質転換体の生育を経時的に測定しました。その結果、菌種間で保存された3つのCys残基の置換体では、野生型に比べて活性が著しく低下したことから、保存されたCys残基が基質の輸送に必須であると考えられました。本研究において、YeeE/YedEファミリー内で初めて構造が決定されたYeeEの新奇の構造と機能解析から、チオ硫酸輸送のモデルを提唱しました。
関連資料
第15回トランスポーター研究会年会
関連論文
https://doi.org/10.1126/sciadv.aba7637
Tanaka Y, Yoshikaie K, Takeuchi A, Ichikawa M, Mori T, Uchino S, Sugano Y, Hakoshima T, Takagi H, Nonaka G and Tsukazaki T.
Crystal structure of a YeeE/YedE family protein engaged in thiosulfate uptake. Sci. Adv. 6, eaba7637 (2020)
本論文のプレスリリース
http://www.naist.jp/news/2020/08/007216.html
【構造生命科学研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses309.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/tsukazaki/
(2021年02月16日掲載)