研究成果

研究成果

ハイビスカス花から採取した酵母の特性と泡盛醸造への応用
〜比較ゲノム解析によって酵母など産業微生物の分類や特徴づけが可能に〜

ハイビスカス花から採取した酵母の特性と泡盛醸造への応用
〜比較ゲノム解析によって酵母など産業微生物の分類や特徴づけが可能に〜

【概要】
 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス領域の高木博史教授および株式会社バイオジェット(沖縄県うるま市)の共同研究グループは、日本最古の蒸留酒「泡盛」の風味のバラエティー化を目指し、南国イメージを有する「ハイビスカス」の花から新しい酵母(ハイビスカス酵母HC02-5-2 株)を分離しました。
 泡盛の小仕込み試験を行った結果、HC02-5-2 株を用いると、従来の酵母とは異なる新たな風味を有する泡盛となることが確認できました。また、既知の酵母との比較ゲノム解析によりHC02-5-2 株はワイン醸造に用いられる酵母と近縁で、一般的な泡盛醸造に用いられる101 号酵母とは異なるグループに含まれることを明らかにしました。さらに、HC02-5-2 株および同株から分離した変異株のゲノム配列を比較し、香気成分の特徴を説明しうる変異を遺伝子上に見出しました。
 これらの成果を活用し、HC02-5-2 株から新たな菌株を育種することで、バラエティーに富んだ泡盛醸造が可能になると考えられ、高木教授らの共同研究グループはHC02-5-2 株由来の変異株(C14 株)を用いて泡盛の商品化に成功しています。
 今回の研究結果はオープンアクセスの国際学術誌「Frontiers in Genetics」に2019年5 月28 日付で掲載されました。

【高木博史教授のコメント】
 科学者にとって、地道な研究の成果が実用化されることは大きな喜びです。今回、多くの方々の尽力により当方の個人的な思いである沖縄への貢献が「泡盛酵母の開発と商品化」という形で、また一つ実現しました。このような研究シーズと産業ニーズのマッチングには、(1)研究者自身の意欲・熱意、(2)共感者・理解者との信頼関係、(3)努力・幸運・感謝、(4)学会・論文発表などが必須であると感じています。
 変異株の分離および解析で協力していただいた研究室スタッフ(豊川洋一博士研究員、杉本幸子研究技術員、那須野亮助教、渡辺大輔助教)、共同研究先の株式会社バイオジェット(塚原正俊代表取締役、阿部峻之研究員をはじめとする皆様)に厚く御礼申し上げます。また、泡盛を商品化していただいた神谷酒造所(神谷雅樹工場長)に対して、心から感謝の意を表します。

【背景と目的】 
 全麹仕込みの単式蒸留酒である泡盛は600 年を超える日本最古の蒸留酒で、その酒質は麹や酵母に大きく左右される。以前は、それぞれの酒造所で独自の微生物を保持し、活用していたが、太平洋戦争の沖縄戦で酒造所が壊滅的な戦禍を受けたことでそのほとんどを焼失し、その後、多くの方々の努力により泡盛復興につながったという歴史的背景がある。
 泡盛酵母については、沖縄国税事務所の玉城らによるアルコールを高生産する泡盛1 号酵母の単離 [1]、さらに泡を作らない泡盛101 号酵母の単離 [2] などの成果により、泡盛の生産が安定した。現在、沖縄県のほとんどの酒造所が泡盛101号酵母を用いている。
 我々は、近年の嗜好の多様化に対応するため琉球泡盛の風味バラエティー化につながる技術確立に取り組んでいる。これまでに、泡盛101 号酵母を親株とした育種により吟醸香(酢酸イソアミル)を高生産する酵母を作出し、商品化に至っている(HYPER YEAST 101)[3]。
 今回、泡盛のブランド化戦略として沖縄らしいイメージを持つハイビスカスに着目し、ハイビスカスの花より泡盛醸造に応用可能な酵母の単離を目指した。単離された「ハイビスカス酵母」の泡盛は実験室での発酵試験、実機での試作を経て商品化された(図1)。

【実験結果】
(1)ハイビスカス花由来醸造用酵母の単離
 沖縄県に自生するハイビスカスの花から、スクリーニングにより高いアルコール生産能を持つ菌を単離した。このアルコール産生菌(HC02-5-2株)のゲノムDNAを次世代シーケンサーに供したところ、酵母Saccharomyces cerevisiaeに特異的な配列を検出することができた。HC02-5-2株が泡盛醸造に適した酵母であるか検証するために小仕込み試験を行った。その結果、仕込み開始から14日後の最終もろみ中のアルコール濃度は101株とHC02-5-2株では同等であった。このことは実用化を目指す上で、実機においても十分なアルコール収得が見込まれることを示す。また、泡盛の重要な香気成分であるvanillinの前駆体4-vinylguaiacolは、HC02-5-2株を用いたもろみでは101号酵母と比べて4倍以上含まれていた。以上の結果から、HC02-5-2株は泡盛製造に用いられる可能性が示された。

(2)ハイビスカス花由来酵母HC02-5-2の系統解析
 HC02-5-2株が出芽酵母の中でどのようなグループに属するか明らかにすることを試みた。系統解析によりDNAの配列を比較することで、株間で配列がどの程度類似しているかを図示できるため、ゲノム中の変異に着目した解析を行った。その結果、泡盛101号酵母は清酒製造に用いられる協会酵母のグループに含まれるのに対して、HC02-5-2株はワイン製造に用いられる酵母のグループに含まれた(図2)。HC02-5-2株は清酒・焼酎・泡盛酵母とは異なり、系統的にワイン酵母に近い株であることが強く示唆された。101号酵母との距離を考えると、HC02-5-2株を用いることで従来の酵母とは異なる風味を有する泡盛の開発が期待された。


図2 酵母の系統樹解析

(3)育種による酵母改良の試み
 HC02-5-2株を用いた泡盛については、実機試験を経て実用化に至った(図1)。また、ハイビスカス酵母が実用株として有用であったことから、さらなる改良を目指し育種を行った。その結果、これまでに複数の育種株を取得し、その中の1つC14株については泡盛の商品化に成功している(はなはな ハイビスカス酵母仕込み)(図3)。


図3 育種株を用いた泡盛の実用化

 また、特定のアミノ酸代謝をターゲットとすることで、HC02-5-2株を親株として、吟醸香を多く生産する株(T25株)を育種した。HC02-5-2株(親株)およびT25株の細胞内アミノ酸含量を測定した結果、T25株のロイシン含量は親株に対し、約3.4倍に増加していた。
 さらに両株の細胞抽出液を調製し、ロイシン合成の鍵酵素α-isopropylmalate synthase(Leu4)の活性を測定した。その結果、T25株のLeu4活性はロイシンによるフィードバック阻害感受性が低下していることが明らかになった。そこで、次世代シーケンサーを用いて親株とT25株の全ゲノム解析を行うとともに、T25株のLEU4遺伝子の塩基配列を決定したところ、T25株のLEU4遺伝子ではアミノ酸置換(Gly516Ser)を伴うヘテロ変異が存在することが明らかとなった。また、このアミノ酸置換がLeu4活性のフィードバック阻害解除、細胞内Leuの蓄積、酢酸イソアミル(吟醸香)の増加を引き起こすことが判明した(図4A-C)。さらに、Leu4の分子モデリングを行った結果、Gly516はLeu4のアロステリック調節を受けるドメイン内に存在し、Serへの置換によりロイシン結合ポケットに立体障害が生じていることが示唆された(図4D)。

【波及効果、今後の展開】
 以上のことから、比較ゲノム解析によりそれぞれの酵母が有する醸造特性の背景となりうるゲノムの特徴づけが可能であることが分かった。本研究において用いられた手法は単離された産業微生物の分類や特徴づけにおいて、酵母にとどまらず応用が可能である。
 また、HC02-5-2株およびC14株を用いた泡盛の商品開発は、ハイビスカスのイメージに合った華やかな風味の泡盛として、各メディアにて紹介された。C14株以外のハイビスカス酵母の育種株についても商品化を目指している。

【参考文献】
[1] 玉城 武: 日本醸造協会誌, 77, 74-77, 1982.
[2] 新里 修一ら: 日本醸造協会誌, 84, 121-123, 1989.
[3] Takagi et al., J. Biosci. Bioeng., 119, 140-147, 2015.(第24回生物工学論文賞)

【掲載論文】
タイトル:Characterization of a New Saccharomyces cerevisiae Isolated from Hibiscus Flower and Its Mutant with L-Leucine Accumulation for Awamori Brewing(ハイビスカス花から採取した泡盛酵母とその変異株の特徴づけ)
著者:Takayuki Abe, Yoichi Toyokawa, Yukiko Sugimoto, Haruna Azuma, Keiko Tsukahara, Ryo Nasuno, Daisuke Watanabe, Masatoshi Tsukahara, Hiroshi Takagi(阿部峻之1, 豊川洋一2, 杉本幸子2, 東 春菜1, 塚原恵子1, 那須野 亮2, 渡辺大輔2, 塚原正俊1, 高木博史2(1(株)バイオジェット、2奈良先端大))
掲載誌:Frontiers in Genetics
DOI:10.3389/fgene.2019.00490

【原著論文のリンク】
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fgene.2019.00490/full

【本学のリンク】
http://www.naist.jp/sankan/content/ja/topics/20180123.html
http://www.naist.jp/sankan/content/ja/topics/20161024.html
http://www.naist.jp/sankan/content/ja/topics/20160603.html

【ストレス微生物科学研究室】
研究室紹介ページ: https://bsw3.naist.jp/courses/courses305.html
研究室ホームページ: https://bsw3.naist.jp/takagi/

(2019年06月10日掲載)

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