研究成果

研究成果

細胞増殖を止めてストレス対策をする植物独自の仕組みを解明
~ 環境の変化に負けない、食糧や植物バイオマスの安定的生産に期待 ~

細胞増殖を止めてストレス対策をする植物独自の仕組みを解明
~ 環境の変化に負けない、食糧や植物バイオマスの安定的生産に期待 ~

【概要】
 奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:横矢 直和)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 植物成長制御研究室の梅田 正明教授、高橋 直紀助教らは、ストレスを受けた植物が、細胞分裂を止めて増殖を抑えることにより、対応するためのエネルギーと時間を確保するというメカニズムの詳細な仕組みを世界に先駆けて発見した。植物は外界からのさまざまなストレスにさらされているが、いずれの場合も同じメカニズムを発動させることにより効率的に対処するという巧妙な生存戦略を明らかにした。
 モデル植物であるシロイヌナズナのDNAに損傷を与えると根の伸長が停止するが、梅田教授らは、遺伝子の働きを調節する転写因子というタンパク質の中で、「ANAC044」、「ANAC085」という2つの転写因子が機能を失った変異体では細胞分裂の停止はなく根が伸び続けることを見出した。また、これらの変異体ではDNAに損傷を与えても根の構造が健やかに保たれていることも突き止めた。
 そこで、この2つの転写因子の働きについて詳しく解析したところ、細胞分裂を抑制する別の転写因子を安定化させることにより、細胞分裂を止める作用があることを解明した。興味深いことに、「ANAC044」と「ANAC085」は植物が高温ストレスに曝された際にも機能していることがわかり、ストレスに応答した細胞分裂の停止機構として中心的な役割をもつことが明らかになった。
 本研究の成果は、転写因子の発現や機能を改変することにより、さまざまなストレスに曝される自然環境下において細胞分裂を止めずに成長を続けさせ、食糧や植物バイオマスを安定的に生産する技術開発に、新たな方向性を与えるものと期待される。
 この研究成果は、現地時間 平成31年4月4日(木)付で、eLife(オンラインジャーナル)で掲載されました。

梅田 正明教授のコメント

この論文は、以前Nature Communicationsに発表した論文(https://www.nature.com/articles/s41467-017-00676-4)の続報です。これまではCDK活性の低下だけでG2期進行が阻害されると考えていましたが、さらに別の転写因子が必要であり、それが様々なストレスに応答して細胞周期を止めるのにハブとなって働く制御系であることがわかりました。以前の研究の蓄積があったので、転写因子を見出してからはある意味トントン拍子で研究が進みましたが、細胞周期停止を引き起こすメカニズムについては未だ不明です。今後、その制御機構を明らかにするとともに、この転写因子をターゲットとしたゲノム編集を行うなどして、農作物の安定的生産を実現する技術開発に結びつけることができれば面白いと考えています。
 本研究を行うにあたりお世話になった方々に、この場を借りて御礼申し上げます。

【解説】
 植物は動けないため、自然環境の中で様々なストレスに曝されながら生きている。ストレスを受けると植物は細胞分裂を抑え、成長を止めようとする。これは細胞分裂に必要なエネルギーを節約し、ストレス応答に必要な時間とエネルギーを確保するのに重要であると考えられている。
 これまで、個々のストレスに対する応答反応については比較的よく研究されてきているが、ストレス環境下で細胞分裂を止める仕組みについてはほとんど理解が進んでいなかった。
 環境ストレスについては、高温や乾燥などにより生じる活性酸素や紫外線はDNAに傷をつけること、土壌中のアルミニウム、ホウ素もDNAに傷をつけ、根の伸長を阻害することが知られている。その仕組みについては、DNA損傷が起こると「SOG1」と呼ばれる転写因子が活性化し、DNA修復が行われるとともに、DNAが複製されてから細胞が2つに分裂するという細胞増殖の周期が、分裂直前のG2といわれる時期で停止することがわかっていた(図1)。しかし、SOG1がどのようにG2期停止をもたらすのかはわかっていなかった。
 梅田教授らは、SOG1が制御する様々な遺伝子について調べたところ、その中の「ANAC044」、「ANAC085」という2つの転写因子の機能がなくなると、DNA損傷を受けても細胞分裂が止まらないことを見出した。また、「ANAC044」と「ANAC085」は「Rep-MYB」と呼ばれる別の転写因子を安定化することにより、細胞周期をG2期で停止させることを見出した(図1)。Rep-MYBは細胞周期のG2期からM期(分裂期)への移行に必要な様々な遺伝子の発現を抑制する働きをもつので、その安定化により細胞周期がG2期で止まることを解明した。

図1 ストレスに応答した細胞分裂の停止機構

 図2に、シロイヌナズナにDNA損傷を与えた際の根の様子を示す。野生型植物では根の伸びが遅くなり、やがて止まってしまうが、「ANAC044」と「ANAC085」の機能を失った変異体では根が伸び続ける。また、図3に根の先端の組織の様子を示す。野生型植物では細胞死(赤く染まった部分)が起こり、組織構造がかなり乱れるが、変異体では全くそういった乱れが見られないのがわかる。これらの結果は、この2つの転写因子がDNA 損傷に応答して細胞分裂を停止させ、細胞死を誘導する役割をもつことを示している。また、「ANAC044」と「ANAC085」の機能を喪失すると、DNA損傷ストレスを受けても成長を続けることができ、根の構造も健やかに保たれることが明らかになった。
 興味深いことに、この2つの転写因子は高温ストレスによっても発現が誘導され、DNA損傷ストレスの場合と同様にG2期停止をもたらすことが明らかになった(図1、図2)。自然環境下では、通常一つのストレスだけでなく、複数のストレスが同時に植物の生存を脅かす。したがって、本研究で明らかになったメカニズムは、様々なストレスに対する植物の生存戦略として中核を担うものであると考えられる。

図2 ストレス処理したシロイヌナズナの根の伸長

図3 DNA損傷処理を施した根端の組織構造

【本研究の意義】
 個々のストレスに対する植物の応答反応については研究がかなり進んでおり、それらの知見をもとにストレス耐性植物の作出が試みられてきた。しかし、ストレス下で成長が抑えられる現象は克服できておらず、それが有用作物の安定的生産の妨げになっている。本研究により、「ANAC044」と「ANAC085」の機能を喪失させると、植物はストレスに曝されても健やかに成長を続けることが示された。したがって、ANAC044/085の機能を抑えるような遺伝子改変や薬剤開発により、自然環境下で安定的な植物生産を実現するための新たな技術開発が可能になると考えられる。このような技術は植物の生産性を飛躍的に上げ、作物や植物バイオマスの増産、ひいては食糧や環境問題の解決に向けて新たな方向性を与えるものと期待される。

【用語解説】
・細胞周期:
G1期、S期(DNA複製期)、G2期、M期(分裂期)の4つのステージから成る細胞周期が回ると、細胞分裂が完了する。外的・内的刺激により、様々なステージで細胞周期が止まることが知られている。
・転写因子:
遺伝子からタンパク質が作られる際には、DNAがメッセンジャーRNA(mRNA)に転写されてからタンパク質が合成される。DNAからmRNAへの転写は、さまざまな転写因子により促進または抑制される。「SOG1」は「ANAC044」と「ANAC085」の転写を促進し、「ANAC044」と「ANAC085」は未知の遺伝子の転写を制御することにより、「Rep-MYB」のタンパク質を安定化させる。

【論文情報】
DOI: 10.7554/eLife.43944
naister(NAIST Academic Repository):http://hdl.handle.net/10061/13132

【共同研究者】
理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー 関 原明

【本研究内容についてコメント出来る方】
金沢大学理工研究域 教授 伊藤 正樹
TEL & FAX: 076-264-6207 E-mail:masakito@se.kanazawa-u.ac.jp

【原著論文のリンク】
https://elifesciences.org/articles/43944

〔植物成長制御研究室〕
研究室紹介ホームページ: https://bsw3.naist.jp/courses/courses105.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/umeda/

(2019年04月16日掲載)

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