NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

神経を伸ばす分子の仕組みを解明- クラッチタンパク質の発見 -

神経細胞は軸索という突起を長く伸ばし、他の神経細胞とシナプスを形成することにより脳内に複雑な回路網をつくる。まるで、コンピューターがインターネットのケーブルによってネットワークを作るようなものである。それでは神経細胞はどのようにして軸索を伸ばすのだろうか?20年前、米国のグループによって、伸びている軸索の先端に含まれるアクチン線維がエンジンのような動きをすることが報告された。また、軸索の先端には路面をとらえるタイヤの役目を果たす「細胞接着分子」も存在する。そこで、神経を伸ばす分子の仕組みとしてエンジンとタイヤを結びつけるとともに速度を調節する「クラッチ分子」が軸索の先端に存在すれば、エンジンの動きをタイヤに伝えて自在に神経が伸びるという説(クラッチ仮説)が提唱された。クラッチ仮説によればいかにして軸索を伸ばす牽引力が生み出されるかを理解しやすい(図1)。しかし、この様な「クラッチ分子」の正体は長らく謎であり、クラッチの仕組みが本当に軸索の伸長に関わるかも不明だった。

本研究は、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科の杉浦忠男准教授、京都大学医学部の渡邊直樹准教授、理化学研究所脳科学総合研究センターの上口裕之チームリーダーとの共同研究で、「シューティン」というタンパク質を調べた。シューティン(図2、緑)は軸索先端でアクチン線維(図2、赤)ともタイヤ分子L1とも連結することが分かった。シューティンを減少させるか、シューティンとエンジン分子の連結を弱めるかすると、軸索先端におけるL1の動きが遅くなり軸索の伸びが抑えられた。また、逆にシューティンを増加させると、L1の動きは早くなり軸索の伸びも早まった。このことから、シューティンが長らく謎だったクラッチ分子であると確認された(図1)。軸索を伸ばすクラッチ分子の存在が明らかになったのは世界で初めてであり、今回の研究成果はクラッチ理論を支持するものとなった。


図1. クラッチ分子としてのシューティンの働き。神経軸索先端でアクチン線維は伸びる方向と逆向きに動く。この動きをシューティンが細胞接着分子L1に伝えると伸びる方向と逆向きに動く。タイヤの接地面が、路面をとらえて進行方向と逆向きに動くことで駆動力を発生するのと同じ原理で、神経が伸びる駆動力が生まれる。


図2. 神経軸索先端のアクチン線維(赤)とシューティン(緑)

掲載論文

Tadayuki Shimada, Michinori Toriyama, Kaori Uemura, Hiroyuki Kamiguchi, Tadao Sugiura, Naoki Watanabe, and Naoyuki Inagaki, Shootin1 interacts with actin retrograde flow and L1-CAM to promote axon outgrowth, J. Cell Biol. 2008 181: 817-829 (2008).

(2008年06月01日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook