NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

植物ホルモン「ジベレリン」の働きを三次元で解明世界初 受容体の三次元構造を決定し、作用機構を明らかに

ジベレリンは、高等植物の生長や細胞の分化の過程を制御しており、農業や産業に広く応用されている。通常、こうした作用(ジベレリン応答)をつかさどる遺伝子群は、「DELLAタンパク質」と総称される複数のタンパク質によって、遺伝子発現が抑制されている。しかし、細胞内の核に存在するジベレリン受容体(GID1)にジベレリンが結合すると、DELLAタンパク質の分解が促進されることによって、それまではDELLAタンパク質によって発現が抑えられていたジベレリン応答をつかさどる遺伝子群が働くことができるというわけである。

現在、自然界には136種類ものジベレリン誘導体が存在することが知られており、その中のごく限られたもののみ活性をもつとされていた(図1 左図)。しかし、受容体がどのように生理活性型のジベレリンのみを識別するのか、また、ジベレリンに結合した受容体のみがどのようにして、多くの転写制御因子の中から、DELLAタンパク質のみを識別して、分解へ導くのかという機構は全く不明であった。

そこで箱嶋教授らは、「ジベレリン受容体」「生理活性型ジベレリン」「DELLAタンパク質」の三者で構成する複合体の結晶構造を決定した。この複合体の中では、ジベレリン受容体はジベレリンを深い結合ポケット中に包み込み、腕のように伸びたスウィッチ領域が手のひらを広げるようにして蓋をしていた(図1 右図)。このポケットの中では、ジベレリンの大まかな形や特徴的な化学的性質をもつ部分のすべてが認識されていた。

驚いたことに受容体の手のひら状の蓋がDELLAタンパク質の識別も行っていた。それはDELLAタンパク質が手のひら状に平たくなって、受容体の蓋の上に覆い被さり、手のひらに手のひらを重ねるように結合していた(図2)。受容体の蓋はDELLAタンパク質の持つ特徴的な3つのアミノ酸配列を手掛かりに特異的に相互作用することにより、DELLAタンパク質を識別していることが明らかになった。この結果により、これまで知られていたもう一つの植物ホルモンであるオーキシン受容体とは、ホルモンの検知や標的タンパク質の認識の異なるもう一つの植物ホルモン受容体モデルが確立された。


図1 高い生理活性をもつジベレリンの化学構造(左図)とX線結晶解析で決定された受容体タンパク質複合体の三次元構造(右図)
左図:GA3は農作や園芸で実際に汎用されている活性型ジベレリンであり、GA4は多くの植物が実際に生合成している活性型ジベレリンの代表ジベレリンには、:GA1から:GA136の136種類が現在知られている。
右図:ジベレリン受容体タンパク質は、ポケットをもつ本体部分(灰色)とポケットの蓋をするスウィッチ領域(青色)からなり、ジベレリン分子(緑色)をポケットに捉えている。DELLAタンパク質(ピンク色)は、ポケットの蓋の上に結合している。


図2 今回の研究で明らかになったジベレリン受容体のジベレリンの認識とDELLAタンパク質の識別

掲載論文

Gibberellin-induced DELLA recognition by the gibberellin receptor GID1. Nature, Volume 456 (No.7221)

(2008年11月28日掲載)

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