研究成果

研究成果

佐藤匠徳(Thomas N. Sato)教授が、財団法人武田科学振興財団の武田報彰医学研究助成対象者に選ばれました

生体機能制御学講座の佐藤匠徳(Thomas N. Sato)教授が、財団法人武田科学振興財団の武田報彰医学研究助成対象者に選ばれました。武田報彰医学研究助成は、大学、研究機関の研究室を立上げ3年未満の新進医学系研究者(教授クラスに限定)を対象に、世界をリードする医学の先端研究(基礎研究、臨床研究)を支援するものです。

助成受託のコメント

今年4月までのアメリカ合衆国における24年に及ぶ研究生活と20年間にわたる自身の(助教授、准教授、教授としての)ラボ運営により研究者・教育者としては超ベテランの域に入っていますが、日本では新米研究者になります。その様な状況で日本での研究費獲得にはかなり不安がありました。しかし、この助成に選ばれたことで日本での研究活動開始を色々な面でサポートして頂けることになり、武田科学振興財団には大変感謝しています。また、この助成金応募に関して必要な推薦者の先生方を探すのに奔走して下さった、河野元研究科長また安田元学長には感謝の気持ちでいっぱいです。これからは日本にしっかりと腰を落ち着け、NAISTでの研究また教育活動を通じて未来の世界をリードしていける若い人材の育成に励んでいきたいと思います。

助成受託研究テーマ

「統合的アプローチによる心血管系の形成及び疾患メカニズムの解明」

心臓、血管系の機能障害は現代社会において最も多い疾患の一つです。また、心血管系の機能障害はあらゆる臓器の正常機能を妨げます。したがって、心血管系の形成、機能制御機構の解明には、現代社会における多くの疾患治療への多大なる貢献が期待されています。本研究では、心血管系の形成及び疾患メカニズムを分子レベルで解明することを目標としています。

血管形成は血管内皮細胞が増殖、移動、集合することによって起こり、内皮細胞によってできた管状構造はさらに、平滑筋細胞またPericyteによって包まれることにより機能的、構造的に成熟した血管になります。これらの一連の血管形成の過程は一般的にVasculogenesis(最初に内皮細胞が集合することによってできる血管ネットワーク)とAngiogenesis(Vasculogenesisによって形成された単純な血管ネットワークがさらに複雑なネットワークを形成し、成熟していく過程)といった二つのプロセスに分けられます(図1)。これらの過程はさまざまな、細胞内外の因子によって複雑に制御されていることが過去30年の私を含めた世界中の研究者のパイオニア的研究で明らかになりました。本助成金の一部はこれらの多くの血管形成因子がどの様に協調的に血管形成の制御に関わっているかをさらに深く研究する為に活用させていただきます。

一方、血管の中を流れる血液は心臓によって送り出されます。この心臓のポンプとしての働きに異常が起こると血流が乱れ、あらゆる生体機能は危機にさらされます。この、心機能の異常に至るコンディションのひとつに心筋梗塞があります。心筋梗塞は冠動脈の血流が途絶されることにより心筋が虚血状態になり壊死してしまう疾患です(図2)。虚血状態が持続することにより心筋が経時的に死んでいき、心機能が低下します。さらには、壊死した心筋細胞の跡を埋めるようにコラーゲンの蓄積がおこり心臓の線維化が起こります。この線維化は心筋細胞死後の心臓の心破裂を防ぐ反面、心筋の硬化を招き、心臓機能を妨げます。この心機能低下が持続すると心機能障害を補うように心臓の肥大がおこります。この一連のプロセスの分子レベルでの解析は数多く報告されています。特に、心筋梗塞に伴う心筋の壊死のメカニズムに関する研究は活発に行われており、最近では、心筋の壊死を防ぐ因子の発見、また幹細胞を使っての心筋再生医療などの研究が急速に進んでいます。梗塞を起こした心臓において血管新生を促進することにより、心機能の回復を促進する治療法の開発などの研究が近年盛んに行われています。しかし、このような心筋機能再生も、過剰な線維化によって妨げられてしまいます。そこで、線維化をコントロールすることが心筋梗塞後の心機能再生において必要不可欠となります。本助成でのふたつめのテーマは、この線維化をコントロールする制御機構を解明することです。


(図1) 血管形成の概要。内皮細胞(Endothelial Cells)と血管平滑筋細胞(Smooth Muscle Cells)という二つの細胞が様々な分子(一部の例が各ボックス内挙げてある)の制御機構(主にAngiogenesisと Vasculogenesisという二つの機構)により、血管を形成する。


(図2) 心筋梗塞は冠動脈が途絶される事により心筋が虚血状態に至り壊死する疾患。

(2009年11月24日掲載)

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