研究成果

研究成果

植物の背丈をコントロールするスイッチを発見! ~植物のサイズを自在に操作する技術の開発や 作物の生産性の飛躍的な向上に期待~

 バイオサイエンス研究科 植物形態ダイナミクス研究室の打田直行助教と田坂昌生教授は、米国ワシントン大学の鳥居啓子教授(科学技術振興機構さきがけ「生命システムの動作原理と技術基盤」の研究員とハワードヒューズ医学研究所の研究員を兼任)、Jin Suk Lee博士、Robin J. Horst博士らとの共同研究によって、植物が自身の背丈のサイズをコントロールする際に、その引き金となる物質と分子スイッチの組み合わせを発見しました。この成果は平成24年4月2日付けの米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に発表されました。

打田直行助教のコメント

 今回の成果を発表することができたのは、田坂昌生教授をはじめとする植物形態ダイナミクス研究室のスタッフの皆様、学生の皆様の常日頃からの御協力のおかげです。ありがとうございます。また、この研究は米国ワシントン大学の鳥居啓子教授のグループの皆様との共同研究として実施したものですが、鳥居教授は非常にフランクに接して下さり、鳥居教授からは本研究のことだけでなく、研究に望む態度や考え方など、多くのことを学ばせて頂きました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本論文自体は基礎科学としての知見に関するものですが、今後様々な形で応用展開させることが可能です。そのような方向性での研究も展開していければと考えています。

研究の概要

 地球上に存在する多様な陸上植物種はそれぞれが固有の形を持ち、この形の多様性に影響する重要なポイントの1つは背丈の違いです。また、植物は周りの環境の変化に適応して生存するために、自身の背丈を環境に合わせて柔軟に変化させます。したがって、背丈のコントロールの仕組みを解明することは、植物の形の多様さと植物の生存戦略を理解する上で非常に重要です。
 一方で、植物の背丈は作物の生産性に非常に大きく関わります。作物個体の生産能力を変化させずに背丈だけを低くすることが出来ると、作物が倒れにくくなり栽培の手間が省けるとともに、植物体がかさ張らないために一定面積に密度高く栽培できます。また、茎の成長に用いられるエネルギーが実など有用部位に回るようになり、与えた肥料が効率的に用いられるため、使用する肥料の減量など環境に与える影響の軽減化にもつながります。したがって、人為的に植物の背丈を変化させる技術の開発は作物の生産性の飛躍的な向上のために極めて有望です。しかし、そのためにはそもそも植物が背丈をどのような仕組みを用いてコントロールしているのかを解明した上で、その仕組みを人為的にコントロールする技術を生み出す必要があります。
 双子葉類のモデル植物として用いられるシロイヌナズナでは、ERECTAと呼ばれる受容体(受容体とは、各種の生理活性物質(リガンド)を特異的に認識して結合し,その情報を細胞内へと伝えるタンパク質の総称。各々の受容体にはそれぞれに特異的なリガンドが存在する:図1)が植物の背丈のコントロールに関わることが古くから知られていましたが、その際にERECTA受容体を特異的に活性化させるリガンド(リガンドとは、特定の受容体に特異的に作用する生理活性物質のこと;図1)は不明でした。そこで、今回、このERECTA受容体を特異的に活性化するリガンドの探索を試みた結果、EPFL4とEPFL6と名付けられながら機能が未知だった2つのリガンド(この2つのリガンドはどちらも同じ働きを持つ)がERECTA受容体に作用することで植物の背丈がコントロールされることを見出しました。受容体であるERECTAの機能を失った植物やリガンドであるEPFL4とEPFL6の機能を失った植物では背丈が特異的に低くなりました(図2)。
 また、面白いことに、リガンドであるEPFL4とEPFL6は、内皮という組織で生み出され、一方で受容体であるERECTAは篩部という組織で働くことが、背丈のコントロールにとって重要でした。このことは、植物は背丈をコントロールするために内皮から情報を発信し、その情報を篩部で受け取るという、内皮と篩部との組織間でこれまでに想定もされてこなかったようなコミュニケーションをとっていることを意味します(図3)。このことは、植物の発生学研究の観点から見て、極めてユニークな発見となります。

 今回、背丈を極めて特異的に変化させるリガンドと受容体の組み合わせを発見したことにより、このリガンドと受容体の結合を阻害する化合物やそのリガンドの代わりをする化合物などの探索を行うことで、遺伝子組み換え技術を用いないで植物の背丈を自在にコントロールする技術の開発が可能になると考えられ、作物の生産性の向上につながると期待しています。


図1.リガンドと受容体の説明図


図2.本研究で発見したリガンドや受容体の機能が失われると背が特異的に低くなる


図3.内皮細胞と篩部細胞の間でのコミュニケーション

(2012年04月05日掲載)

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