NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

波平昌一助教が医科学応用研究財団の研究助成対象者に選ばれました

分子神経分化制御学講座の波平昌一助教が鈴木謙三記念 財団法人 医科学応用研究財団 「平成22年度調査研究助成」の対象者に選ばれました。本助成は、疾病の予防、診断、治療における医学、薬学、医工学及び関連諸科学の医療への応用に関する調査研究に対して助成金を交付し、国民保健に関する科学の進歩及び国民の福祉の向上に貢献しようとするものです。

鈴木謙三記念 財団法人 医科学応用研究財団のホームページ

助成受託のコメント

波平昌一助教 この度、財団法人医科学応用研究財団より、「平成22年度調査研究助成」を頂くことになり、大変感謝致します。この助成金を有効活用し、さらなる研究の発展を目指して参ります。

助成受託研究テーマ

DNAメチル化の破綻に起因する脳神経疾患に対するモデル動物の開発

統合失調症(国内約73万人、2005年厚生労働省)や躁鬱病などの気分障害(国内約94万人、2005年厚生労働省)は、近年国内でも年々患者数の増加が報告されているが、症状の発生が思春期以降となるため、明確なモデル動物の確立が遅れている脳神経系の後天的疾患である。同様に、グリオーマ等の脳腫瘍に関しても、その発生機序が明らかにされておらず、特異的な薬剤が見つかっていない。そのため、両者の神経系疾患に対しては決定的な治療方針が確立されていない。しかし最近、神経系細胞におけるゲノムDNAメチル化と神経系疾患との関連が注目されている。例えば、DNAメチル化を担うDNAメチル化酵素(DNMT)の異常発現が統合失調症患者脳内において、特定の神経細胞(ニューロン)でのみ観察されるという報告がある。加えて、DNMTの一種であるDNMT3Aは脳腫瘍の一種のグリオーマとの関連が指摘されている。しかし実際には、DNAメチル化の異常がそれらの疾患の発症の原因となっているかどうかは、不明のままである。一般的に行われてきた通常の手法によるマウス胎生初期からのDNMTの遺伝子欠損は、細胞内のゲノム全体の低メチル化を引き起こし、細胞死を引き起こしてしまう。従って、モデル動物を用いてのそれらの脳疾患とDNAメチル化の関連についての詳細な解析はほとんど行われていない。

そこで本研究課題は、薬剤投与により時間依存的に、神経系細胞で遺伝子欠損を誘導できる条件的遺伝子欠損マウスを用いて、様々な時期に中枢神経系特異的にDNMTの欠損を誘導する。そして、それらのマウスの生後の脳機能と行動解析を行い、脳神経疾患時に見られる表現系と比較する。本研究課題は、中枢神経系DNAメチル化制御機構の破綻に起因する脳神経疾患の発生機序を明らかにすることを目的とし、未だ世界的にも開発されていないそれら疾患に対するモデル動物の作成を目指す。

関連する論文
  1. Namihira M, Kohyama J, Semi K, Sanosaka T, Deneen B, Taga T, Nakashima K. Committed neuronal precursors confer astrocytic potential on residual neural precursor cells. Dev Cell. 16(2):245-255, 2009.
  2. Hutnick LK, Golshani P, Namihira M, Xue Z, Matynia A, Yang XW, Silva AJ, Schweizer FE, Fan G. DNA hypomethylation restricted to the murine forebrain induces cortical degeneration and impairs postnatal neuronal maturation. Hum Mol Genet. 18(15):2875-2888, 2009.

(2010年11月17日掲載)

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