研究成果の紹介
血管の収縮酵素の三次元分子構造を解明 : 脳卒中等の治療薬の開発に拍車
情報科学研究科 情報生命科学専攻・構造生物学講座の箱嶋敏雄教授らは、血管収縮の鍵となる酵素であるRho-キナーゼの三次元構造を決定して、この酵素の阻害剤の作用の機構を解明した。生活習慣病、特に、脳や心臓の血管疾患は癌と並ぶ主要疾患の一つである。血管が細くなったり、硬くなったりすると血圧は高くなる。また、血液が固まり易くなったりすると、血管が詰まってしまうことがある(梗塞)。この血圧に血管が耐えられなくなると、血管が破れて、出血する(溢血)。このような症状を抑えるには、血圧を下げる必要がある。本研究のRho-キナーゼは、タンパク質キナーゼと呼ばれる酵素の一種であり、活性化すると血管を収縮させるという薬理学的に極めて優れた作用がある。Rho-キナーゼの活性を阻害剤で抑えると、血管は拡張して、内径が太くなるので、血圧は下がる。これが、Rho-キナーゼ阻害剤が血圧を下げる作用のある優れた治療薬になる可能性をもつ科学的な根拠である。実際、世界中の研究者・製薬企業が治療薬候補を開発中である。Rho-キナーゼが働くためにはATPという分子を必要とする。本研究では、ファスジル(図の赤い分子)と呼ばれる阻害剤がこのATPの結合部位をブロックして、Rho-キナーゼの酵素としての働きを阻害していることを明らかにした。ファスジルは、くも膜下出血時の脳血管攣縮を緩和する薬剤として臨床応用されている。
掲載論文
Yamaguchi, H., Kasa, M., Amano, M., Kaibuchi, K. and Hakoshima, T. (2006) Molecular mechanism for the regulation of rho- kinase by dimerization and its inhibition by fasudil. Structure 14, 589-600.
(2006年06月30日掲載)