NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

植物は細胞異常を感知するセンサーによって病原菌侵入を察知していた
~病原菌による攻撃を受けた細胞が放出するシグナル因子を認識して
植物が免疫応答を強化する仕組みを解明、耐病性と増収を兼ね備えた作物に期待~

 バイオサイエンス研究科植物免疫学研究室の 西條雄介准教授らは、共同研究者である山田晃嗣博士(現京都大学)らとともに、悪玉の微生物による細胞のダメージを感知、識別して植物免疫が強化される仕 組みを明らかにしました。人為的に微生物センサーの補助因子BAK1を除去して微生物センサーによる免疫応答を低下させた植物では、そのような細胞の異常 を感知する細胞ダメージセンサーの働きが活発になっていたのです。これまで西條准教授らはモデル植物のシロイヌナズナを材料に、植物自身のダメージを 感知するセンサーが植物の生体防御に重要であることを世界に先駆けて明らかにしており、その裏付けとなる研究成果です。
 本成果は、平成27年11月16日(月)付で欧州科学誌The EMBO Journalにオンライン掲載されました。 

西條雄介准教授のコメント

   本論文は、山田晃嗣博士(現京都大学)を中心に、平瀬大志大学院生、晝間敬助教を始めとした多くの研究員の協力のもと長年にわたって行われてきた研究成果をまとめたものです。シロイヌナズナの細胞ダメージ認識に働くPEPRはBAK1依存的に活性酸素種などを誘導することが知られており、これまでの知見と一見矛盾する結論であること、また本研究の途中で研究室がマックスプランク研究所(ドイツ)から本学に移転したこともあり、論文が受理されるまで長い時間がかかりました。植物でよく発達した膜受容体型キナーゼファミリーの多くがBAK1を補助因子として必要としますが、BAK1が病原体による攻撃を受けた際に、それを認識して植物免疫を維持・強化する仕組みを一つ明らかにすることができました。植物が病原菌と常在菌を識別して免疫応答を制御する仕組みについて、今後もさらに解明を進めていきたいと考えています。

    植物は微生物に特有の構成成分を感知して免疫応答を活性化する微生物センサーを多種類持っていますが、植物体内に棲息する常在菌に対して強い免疫応答が誘導されることは通常ありません。したがって、病原菌を識別するために微生物センサーに加えて別のセンサーも活用していると予想されますが、その実態は不明でした。
     先行研究では、傷害を受けた細胞から放出されると推定されるPROPEPペプチド内にある免疫活性化Pep配列を認識するPEPRが、微生物センサーが誘導する免疫応答に寄与することを示していました。植物では膜局在性のロイシンリッチリピート(LRR)受容体キナーゼ(RK)ファミリーがよく発達しており、細胞間情報伝達や細胞外刺激に対する応答を仲介しています。LRR-RKには PEPR等の免疫センサーが含まれ、その多くは共受容体BAK1と複合体を形成してシグナル伝達を行うことや、病原菌が植物に感染する際にBAK1を阻害する例が知られています。BAK1の非存在下では細胞死が進みやすくなることが知られていましたが、その際PEPRシグナル系が細胞死を亢進すること及び特にサリチル酸を介した免疫応答を増強することが本研究によってわかりました。したがって、病原菌によるBAK1除去が微生物センサーの機能を低下させる一方で細胞ダメージ警報の放出を促し、PEPRがそれを認識することで病原菌に対して選択的に免疫応答を活性化させると考えられます。 またPROPEPペプチドの産生や細胞外への放出が病原菌の病原性や細胞死の進行に応じて増大することも突き止め、細胞ダメージ警報として働くことを示す確固たる証拠が得られました。さらに、世界中で甚大な作物被害を起こしている「炭疽病菌」がBAK1を除去して感染を進めること、またBAK1除去に反応するPEPRシグナル系が菌感染の拡大阻止に重要な役割を担っていることも明らかにしました(図1)。

図1 PEPR経路が病原菌によるBAK1除去に対して植物免疫を強化する仕組み。

【植物免疫学】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses111.html
研究室ホームページ:http://bsw3.naist.jp/saijo/

(2015年11月25日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook