研究成果

研究成果

バイオサイエンス研究科細胞間情報学研究室の久保健一研究員、高山誠司教授らが、植物が自分以外の花粉を選ぶための遺伝子セットを特定:生物の非自己認識システムの進化の謎解明

 植物は近親交配を避けるために、他者の花粉を選んで子孫を残す性質を持つことが知られ、「自家不和合性」と呼ばれている。細胞間情報学研究室の高山誠司教授、久保健一研究員らは、チューリッヒ大学の清水健太郎教授らと共同で、ナス科の園芸植物であるペチュニア(図1)が、他家受精を促進するために、16~20種類のタンパク質を用いて非自己の分子を認識するシステムを利用していることを明らかにした。
 本研究成果は、植物専門誌Nature Plantsの創刊号(1月8日)に掲載された(ペチュニアの花の写真が創刊号表紙を飾った)。 

高山誠司教授のコメント

 植物が、多数の分子を使って非自己の分子を認識するという動物の免疫系のような自他識別機構を持つことがわかってきた。また、今回の研究により、認識分子とその標的分子が、長い年月をかけて相関しながら共進化している様子もみえてきた。本研究が、自己と非自己の識別という生物が持つ基本的仕組みの解明や進化の理解に繋がることを期待している。





研究の概要

 多くの植物が自家不和合性を持ち、自己と非自己の花粉を識別して近親交配を回避している。この自他識別は、一般に多数のS遺伝子S1, S2, ---)により制御されている。すなわち、受粉した花粉が、雌ずいと同じS遺伝子を持っていると花粉管の発芽・伸長が抑制され、受精が阻止される。近年、アブラナ科とケシ科という異なる自家不和合性機構を持つ2種類の植物でS遺伝子座の解明が進み、いずれも「自己」の認識に関わる花粉因子と雌ずい因子がセットでコードされていることがわかってきた(図2左)。すなわち、いずれの植物でも同じS遺伝子から作られる花粉因子と雌ずい因子が特異的に相互作用することで、自己の花粉が受粉したことを感知し、拒絶反応を引き起こして受精を阻止するという仕組みは共通であることがわかってきた。
 一方、本研究で対象としたナス科植物は、これらとは根本的に異なる自家不和合性機構を持つことがわかってきた(図2右)。雌ずい因子は花粉を殺してしまうRNA分解酵素S-RNase (S-ribonuclease)であり、花粉因子はS-RNaseを認識してユビキチン化・無毒化する多数のF-boxタンパク質群SLFs (S-locus F-box proteins)であった。当研究室の解析により、多数のSLFsはいずれも自己(同じS遺伝子)のS-RNaseは認識・無毒化できないため、花粉は自己の雌ずいの中では殺されてしまうこと、一方、非自己のS-RNaseに対してはいずれかのSLFが認識・無毒化できるため、花粉は非自己の雌ずい内では殺されず花粉管を伸ばして受精できることがわかってきた。
 今回、網羅的な遺伝子解析から、個々の花粉は16~20種類のSLFsを持つことがわかった。これらのSLFsが分担協力して非自己S-RNaseの認識にあたることで、50種類以上ある非自己S-RNaseのほぼ全てを解毒可能にしていることが明らかとなった。さらに、1億2千万年以上の長い年月をかけてS-RNaseSLFsが共進化してきたこと、また多数のSLFsの獲得に際し、遺伝子重複と遺伝子交換が重要な役割を果たしてきたことがわかってきた。さらに、各々のS遺伝子は自己S-RNaseを認識するSLFsを獲得しない方向に進化していること、一旦獲得すると自分で種子を作る自家和合性株に変異することも示された。
 本成果は、複数の因子を使って多数の非自己由来の因子を認識するという、動物の免疫系にも似たシステムが植物においても進化してきていることを示すものであり、生物における非自己認識系の進化を探求するモデルとしても注目されている。 

【用語解説】 

S遺伝子:昔から「S遺伝子」と呼ばれてきたが、最近の研究により一緒に遺伝する複数の遺伝子のセットであることがわかったので、専門用語では「Sハプロタイプ」と呼ばれている。 



【細胞間情報学】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses102.html
研究室ホームページ:http://bsw3.naist.jp/takayama/

(2015年02月12日掲載)

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