NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

植物が根を増やすメカニズム- 作用するホルモンの謎を遺伝子で解明 -

高等植物の地下部は、種が発芽して最初に伸びる主根とよばれる根と、伸びている根の内部から新たに作られる側根や、地上部から作られる不定根などから成り立っている。個々の根はその先端にある分裂組織(根端分裂組織)の働きによって細胞数を増やし成長する。植物は根の分裂組織を次々と作ることで根を増やし、植物体の生育に必要な土中の水分やミネラルの吸収を行っている。これまで植物ホルモンの一つであるオーキシンが側根を作る過程を促進することがわかっていた。しかし、遺伝子レベルでの仕組みはほとんど研究されていなかった。シロイヌナズナの側根形成の初期段階に必要なARF7とARF19遺伝子の2つの機能が欠損した変異体(arf7 arf19)では、側根がほとんど作られない(図A-2)。ARF7とARF19遺伝子はオーキシンに応答して他の遺伝子の働きを活性化させる転写因子と呼ばれるタンパク質を作り出す鍵遺伝子である。そこで、この変異体で働きが低下している遺伝子のうち、側根形成の初期段階でオーキシンによって活性化される2つの遺伝子(LBD16、LBD29)に注目し、側根形成におけるそれらの遺伝子の働きについて詳しく調べた。その結果、LBD16とそれに良く似たLBD29遺伝子は、ARF7とARF19タンパク質によりオーキシンに応答して直接転写が活性化される遺伝子であることが明らかになった。さらに、側根が作られなくなったarf7 arf19変異体(補足図A-2)の中で、LBD16やLBD29遺伝子の働きを人為的に活性化させると、側根が新たに作られる事も示した(補足図A-3)。また逆に、LBD16遺伝子の働きを抑制した野生型植物では、側根の数が減少していた(補足図A-4)。そしてLBD16やLBD29遺伝子もまた、細胞の核の中で他の遺伝子の働きを調節する植物に特有なタンパク質をコードすることが示唆された。このような結果から、オーキシンの作用により側根が形成される初期過程の分子ネットワークが明らかになった。


図. ARF7とARF19遺伝子が機能しなくなった植物(左から2番目)では側根が作られないが、この植物の中でLBD16遺伝子を活性化させると側根が作られる(右から2番目)。野生型では多くの側根が作られるが(1番左)、LBD16タンパク質の機能を抑制すると側根が作られなくなる(1番右)。


図. LBD16、LBD29遺伝子はオーキシンに応答して活性化したARF7、ARF19の働きにより活性化(転写の誘導)し、側根形成を促進する。赤で示した部分は今回の発見による。

掲載論文

Yoko Okushima, Hidehiro Fukaki, Makoto Onoda, Athanasios Theologis, and Masao Tasaka. ARF7 and ARF19 Regulate Lateral Root Formation via Direct Activation of LBD/ASL Genes in Arabidopsis. Plant Cell First published on January 26, 2007; 10.1105/tpc.106.047761

(2007年02月09日掲載)

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