NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

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プロテオミックアプローチによる疾患発症機序の解明

演題 プロテオミックアプローチによる疾患発症機序の解明
講演者 印東 厚 博士(名古屋大学大学院医学系研究科 環境労働衛生学 特任助教)
使用言語 日本語
日時 2019年8月23日(金曜日) 14:30~15:15
場所 大セミナー室
内容

 神経変性疾患は脳や脊髄にある特定の神経細胞が選択的に障害を受け、脱落する疾患の総称である。筋萎縮性側索硬化症ALSは筋肉を動かすための運動ニューロンが選択的に障害を受け、随意筋が徐々に弱まることを特徴とする。本研究ではALS原因遺伝子のひとつC9ORF72ホモログの遺伝子上流にLacZ遺伝子をノックインしたマウスによる解析を行った。β‐gal染色によってC9ORF72ホモログが脳組織では海馬歯状回、大脳皮質V層におけるNeuN陽性神経などで、脊髄では前角NeuN陽性細胞やChAT陽性細胞などに発現することを示した。この発現パターンはALSにおける運動ニューロンの変性が起こる部位と一致し、ALSで選択的な神経細胞の変性が引き起こされる機序の解明につながる初めての報告となった。
 別の神経変性疾患であるBVVL症候群はALSと同様に随意筋の減弱が症状として現れるが、ALSとの大きな違いは難聴を伴う点にある。現在報告されている全てのBVVL患者がリボフラビン輸送体
SLC52A2, またはSLC52A3に変異を有することが報告されている。そこで本研究ではSlc52a3ホモログを欠損させたKOマウスの作製を試みたが胚性致死であった。
 次にSlc52a3 KOマウスES細胞を運動ニューロンへと分化誘導したが、Slc52a3は関与しないことが明らかになった。そこで成体におけるSlc52a3の発現パターンを解析し、特に消化器官で発現が高いことから、Lgr5‐Creによる小腸conditional KO マウスを作製したところ、コントロール群と比較してロタロッド運動能テストにおけるスコアが有意に低下した。一方で、もう一つの原因遺伝子であるSLC52A2はグリア細胞など神経組織において発現することがわかり、これらの結果よりBVVL症候群はSLC52A3変異による小腸でのリボフラビン輸送、もしくはSLC52A2変異による神経組織での機能不全が疾患を引き起こすという発症経路について初めて報告した。
 ALSのC9ORF72解析では原因遺伝子の発現パターンと変性を受ける細胞種が一致したのとは対照的に、BVVL症候群の解析では、原因遺伝子の消化器官における機能不全が離れた神経組織に変性を引き起こす発症経路を明らかした。このような「組織間をまたぐ発症経路」を深く理解するため、現在行っているプロテオミクス解析を足掛かりとした疾患発症機序の解析についても、合わせて紹介したい。

問合せ先 植物細胞機能
橋本 隆 (hasimoto@bs.naist.jp)

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