NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

セミナー情報

骨髄細胞による生体の維持・修復

演題 骨髄細胞による生体の維持・修復
講演者 田口 修 博士(高知大学医学部眼科学教室・研究員)
使用言語 日本語
日時 2018年9月27日(木曜日) 16:00~18:00
場所 大セミナー室
内容

リンパ球や腸上皮細胞は放射線に極めて弱い。致死量の放射線を照射したマウスに骨髄細胞を注射しておくと、腸上皮は短日で再生する。これまでは、注射した骨髄細胞がリンパ球となって腸に集まり、感染に対して対応し、残存している上皮細胞で腸が再生されると考えられていた。ところが実際には、放射線照射マウスに骨髄細胞を注射しておくと、ドナーに由来する細胞の第一陣が腸の上皮細胞直下に間質細胞として入り込むことがわかった。この細胞がわずかに生き残っていた放射線抵抗性の上皮細胞に作用して上皮の再生を促していると推測される。一方、ドナー由来のリンパ球は、かなり遅れて腸管に到達する。

正常な無処置マウスに骨髄細胞を注射しても、細胞はどこにも生着できず、すぐに死滅する。さらに、マウスの腹部を切開して脾臓を引き出し、体全体を鉛板でシールドして、致死量の放射線を脾臓のみに照射する。このマウスに骨髄細胞を注射しても、細胞は造血器系細胞が全て死滅した(空の)脾臓に生着することはできない。

正常マウスと GFP 陽性トランスジェニックマウスを並体結合(parabiosis)しておくと、正常マウスの臓器中に、GFP 陽性細胞が見られるようになる。このことから、骨髄細胞が骨髄を出るときに、他の臓器に侵入することを可能にするための何らかの「カギ」(key)を受け取るのではないか、という推測が成り立つ。

骨髄細胞は心筋や脳神経にも変身する。これらの結果から、骨髄細胞は常に全身を巡って障害を受けた臓器の修復をしていることが伺える。生体は凄腕の大工さんを備えているに違いない!

参考文献: The American Journal of Pathology 182, 1255-1262, 2013.

問合せ先 機能ゲノム医学
石田 靖雅 (ishiday@bs.naist.jp)

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