NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

清水清三郎商店株式会社、株式会社Linné、いくひ合同会社 及び奈良先端科学技術大学院大学が日本酒醸造における並行複発酵の新たな意義の探索に関する 共同研究を開始

清水清三郎商店株式会社、株式会社Linné、いくひ合同会社 及び奈良先端科学技術大学院大学が日本酒醸造における並行複発酵の新たな意義の探索に関する 共同研究を開始

【概要】
 清水清三郎商店株式会社(本社:三重県鈴鹿市、代表取締役:清水慎一郎、代表銘柄「作」「鈴鹿川」)、株式会社 Linné(本社:京都府京都市、代表取締役:今井翔也)、いくひ合同会社(本社:東京都小平市、代表社員:石渡英和)及び奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の准教授渡辺大輔ら4者は、日本酒醸造における並行複発酵の新たな意義の探索に関する共同研究を開始したことをお知らせします。

【共同研究の背景と目的】
 日本酒の醸造では、並行複発酵(注)という発酵形式が用いられています。これは、糖化と発酵を同時にバランスよく進行させる高い醸造技術を要するものです。また、高濃度の糖分で酵母の発酵が停滞することを回避し、他の醸造酒と比較して高いアルコール度数であることが特徴のひとつである日本酒の醸造に必要不可欠な発酵形式であるとされています。

 しかし、日本酒を特徴づけるはずの並行複発酵の意義については、これまで経験的に得られてきた知見が殆どであり、科学的には十分に解析し尽くしてはいないのではないかという点に、4者は共通の問題意識を見出しました。例えば、並行複発酵という発酵形式の中では、酵母は他の発酵形式とは  異なる環境変化を感知し、挙動している可能性があります。その結果として、日本酒の香味やおいしさには、ワインやビールとは異なる影響がもたらされていることも考えられ、このことを明らかにすれば、日本酒固有の価値の発見に繋がるのではないかと考えました。

 こうした問いに対する答えを、現代のバイオサイエンス技術に基づいて解析し、並行複発酵の新たな意義を探索することを研究の目的としました。

図:酒類醸造における発酵形式

【共同研究の内容】
 本共同研究では、異なる発酵形式が酵母に与える影響を遺伝子発現の観点から解析します。現在までに、単行/並行複発酵モデル実験系の構築に成功しています。さらに、日本酒のもろみにおいても単行/並行複発酵以外の違いが最小限となるような実験系の構築を目指しています。

【今後の展開】
 ワインやビールとは異なる日本酒の固有の価値が発見されれば、国内外の消費者に対して日本酒独自の訴求力が得られることが期待できます。本共同研究の推進により、日本酒の需要促進や海外展開に貢献してまいります。

【用語解説】
注 並行複発酵:デンプンの糖化とアルコール発酵を同時並行的に行う発酵形式である。日本酒の醸造が典型で、糖化と発酵をバランス良く進行させる必要があり、高度な醸造技術とされている。なお、ワインはブドウ糖がアルコール発酵する単発酵、ビールはデンプンの糖化と麦芽糖の発酵の工程が別々に進行する単行複発酵の形式である。

■ 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 微生物インタラクション研究室 について
 微生物インタラクション研究室では、人類に身近な微生物がどのようにふるまい、他生物や環境要因とどのように相互作用することで複雑な生態系を構築するのかを分子・代謝・細胞レベルで明らかにし、ミクロの世界における多様性の理解を目指した研究・教育を行います。食と健康を意識したバイオ技術にも貢献していきます。
https://bsw3.naist.jp/microbial_interaction/

■ 清水清三郎商店株式会社 について
 1869年(明治二年)創業の三重県鈴鹿市の酒蔵です。「作」「鈴鹿川」などのブランドを展開しています。国内外の日本酒コンテストでの受賞歴が多く、ロンドンの IWC では 7 年連続受賞、パリの KURA Master でプレジデント賞、全国新酒品評会、Sake Competition 首位賞、能登杜氏自醸清酒品評会では最優秀賞受賞などの実績があります。より良い酒を目指して、常に技術の研鑽と酒への愛情によって、酒造りに取り組んでいます。
https://seizaburo.jp/

■ 株式会社Linné(リンネ) について
 2024年京都で創業。多種多様な素材や日本ならではの概念にインスピレーションを受けながら、食文化の多様性を広げることを理念としています。代表・醸造家の今井翔也は、日本酒スタートアップWAKAZEの元共同創業者で、東京・パリで初代杜氏として蔵を立ち上げ、4年半の渡仏と米国での酒造経験を経て帰国後独立。現在はファントムブリュワリーとして全国の酒蔵を転々としながら酒造りを行う他、京都で自社醸造所の創立を準備中。LINNÉ初のブランド「800(ヤオ)」は、「異を醸す酒」をコンセプトに、複数の植物由来原料を組み合わせた「クロスボタニカル」を醸造の軸とし、並行複発酵や麹の新しい可能性を解放することを目指しています。
https://linne.inc/

■ いくひ合同会社 について
 「日本酒の裾野を広げる」というテーマを掲げて活動している「日本酒の総合アドバイザリーパートナー」です。代表社員の石渡英和は、元国税局主任鑑定官の経歴があり、行政関係者、酒蔵、酒類流通業者、サービス事業者、酒類業界への新規参入スタートアップ等、日本酒に関わるすべてのパートナーとの連携を進めることで、お酒の新たな価値創造に取り組んでいます。

【微生物インタラクション研究室】

研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses313.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/microbial_interaction/

(2024年10月02日掲載)

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