研究成果

研究成果

橋本隆教授と庄司翼助教の研究グループが、ニコチン量をコントロールするマスター遺伝子をタバコから発見

植物遺伝子機能学講座の橋本隆教授と庄司翼助教らは、タバコ植物で生理活性物質ニコチンが作られるために必要な全ての遺伝子をコントロールするマスター遺伝子を発見しました。また、低ニコチン蓄積タバコ品種ではこの遺伝子が欠損していることを見出し、キーになる遺伝子であることを裏付けました。今後、この遺伝子を使い、タバコに含まれるニコチン量の調節や、天然の薬など新たな有効成分の作成への応用が期待できます。この成果は、NHKニュース(関西版)、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、奈良新聞に記事として取り上げられました。

プレスリリース詳細( 大学HP http://www.naist.jp/ 内コンテンツ )

橋本隆教授のコメント

【写真】橋本教授の記者会見の様子
記者会見の様子
この研究の発端は、私が京都大学大学院の博士後期課程大学院生時に「Tobacco」という英文書物の中に「ニコチン含量に影響を与える遺伝子座がある」という記述を偶然目にしたことに始まります。当時はニコチンの研究をまだ始めていなかったのですが、天然物生合成の遺伝学に強い興味を持ち、米国の研究所に手紙を書いて低ニコチン含量タバコ系統を譲渡してもらいました。学位取得後に、このタバコ系統の遺伝子発現を調べ始め、低ニコチンの原因がニコチン生合成酵素遺伝子の異常ではなく、複数の酵素遺伝子の発現を活性化できないことにあるとつきとめました(Plant Cell 1994)。その後、この低ニコチン遺伝子座の分子実体を明らかにすべく本学にて研究を続けてきましたが、タバコはゲノムサイズが大きく、また複二倍体という分子遺伝学研究には適さない植物種であることから研究は難航しました。結局、今回低ニコチン遺伝子座(2つある)の1つを実体を明らかにするのに、15年以上もかかってしまいました。苦労の甲斐があって、この遺伝子座は非常に興味ある遺伝子構成をしており、また、薬用植物が蓄積する生理活性物質の生合成がどのようにコントロールされているかを示唆する発展性のある研究成果となりました。

研究の概要

タバコ(Nicotiana tabacum)はニコチンや類似アルカロイドを根で合成する。葉に害虫により傷害がおこると、傷害ホルモンであるジャスモン酸を経由したシグナル系により根でのアルカロイド合成が活性化される。調節遺伝子座NICはニコチン合成を正に制御しており、その変異遺伝子座が低ニコチンタバコ品種の育種に使われている。NIC2遺伝子座はERF (ethylene response factor)サブファミリーの複数の転写因子遺伝子から構成されており、nic2変異系統では少なくとも7つのERF遺伝子が欠失していることを、今回見出した。種々の機能解析実験の結果、NIC2遺伝子座ERF遺伝子群はその機能を一部重複しているが、ジャスモン酸による発現誘導性やニコチン生合成活性化効率は異なることがわかった。これらのERF遺伝子群はニコチン生合成酵素遺伝子のプロモーター領域の特定配列を認識し、標的遺伝子を活性化する。すなわち、遺伝子重複により機能に幅がある転写因子群が誕生し、ニコチン合成を堅固にコントロールしていることが明らかになった。

興味深いことにNIC2遺伝子座ERFはニチニチソウのインドールアルカロイド生合成の転写活性化因子ORCA3と構造が非常に似ており、異なる植物種でジャスモン酸誘導性天然物の生成制御に同じ転写因子が使われていた。薬用植物が産生する生理活性天然物の多くはジャスモン酸により生合成が誘導されることから、種々の薬用成分の生合成研究に本研究の知見は有用である。

(2010年11月09日掲載)

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