細菌の外膜タンパク質を「手渡し」する分子の動きを解明
~分子シャペロン SurA と BAM 複合体の 4 つの構造から見えた動的なタンパク質受け渡し機構~
細菌の外膜タンパク質を「手渡し」する分子の動きを解明
~分子シャペロン SurA と BAM 複合体の 4 つの構造から見えた動的なタンパク質受け渡し機構~
<発表のポイント>
● グラム陰性細菌で、外膜タンパク質(OMP、注1)を組み立て装置 BAM 複合体へ運ぶ分子シャペロン(注2)SurA について、可動性の高い P1 および P2 ドメインが、SurA 機能に必須な Core ドメインの働きを調節することを示しました。
● クライオ電子顕微鏡(注3)によって SurA–BAM 複合体の 4 つの異なる立体構造を決定し、SurA がBAM 上で大きく構造を変化させて基質を受け渡す動的なモデルを提案しました。
● 本成果は、細菌の外膜形成機構の理解を深めるとともに、SurA–BAM を標的とした新たな抗生物質の開発につながる基盤的知見を提供します。
【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域構造生命科学研究室の塚崎智也教授、宮崎亮次助教、甲賀栄貴助教、博士前期課程(当時)松岡那実らの研究グループは、高輝度光科学研究センター(JASRI)の重松秀樹主幹研究員、宮崎大学、インドネシア国立研究イノベーション庁(BRIN)との共同研究により、グラム陰性細菌において、外膜タンパク質を正しく組み立てるために働くシャペロン SurA と、外膜タンパク質組み立て装置 BAM 複合体との動的な相互作用機構を明らかにしました。
グラム陰性細菌の細胞の最外層にある外膜は有害物質に対するバリアとして働き、その機能は多数の外膜タンパク質によって支えられています。これらの外膜タンパク質は、細胞内で合成された後、ペリプラズムを通って外膜へ運ばれ、BAM 複合体によって外膜に組み込まれます。SurA は、まだ立体構造を形成していない外膜タンパク質を捕捉し、BAM 複合体まで運ぶ分子シャペロンです。しかし、SurA がどのように外膜タンパク質を保持し、BAM へ受け渡しているのか、その分子機構は十分には分かっていませんでした。
今回の研究では、生化学的解析から、SurA の可動性の高い P1 および P2 ドメインが Core ドメインの機能を調節するとともに、BAM 複合体と直接相互作用することを示しました。さらに、クライオ電子顕微鏡を用いて SurA–BAM 複合体の 4 つの異なる構造状態を明らかにしました。また、SurA の P2ドメインと BAM 構成因子 BamE との相互作用が、効率的な外膜タンパク質の組み立てに重要であることを示しました。これらの構造・機能解析を統合し、SurA が BAM 複合体上で複数の構造状態を経た構造変化により、外膜タンパク質を受け渡す動的なモデルを提案しました。
本研究は、細菌の外膜タンパク質がシャペロンから組み立て装置へ受け渡される仕組みの理解を深めるとともに、SurA–BAM を標的とした新たな抗生物質の開発につながる基盤的知見を提供します。
本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」に 2026 年 9 月 4 日(金)午前 10 時(ロンドン時間)に公開されます(DOI:10.1038/s41467-026-76843-3)。

【背景と目的】
大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性細菌は、内膜と外膜という 2 つの生体膜を持っています。外膜は細胞外環境に直接面しており、抗生物質を含む有害な化学物質の侵入を防ぐバリアとして働いています。外膜にはβバレルと呼ばれる樽状の構造を持つ多数の外膜タンパク質(OMP)が存在し、これらが栄養物質の取り込みや外膜構造の維持などに働きます。OMP は細胞質で合成された後、まだ立体構造を形成していない状態で、Sec 複合体を介して内膜を透過してペリプラズムへ運ばれます。その後、SurA などの分子シャペロンが未成熟な OMP を捕捉し、外膜にある BAM 複合体へ運びます。BAM 複合体は BamA、BamB、BamC、BamD、BamE から構成され、SurA から受け取った OMPをβバレル構造へと組み立て、外膜に組み込みます(図1)。
しかし、SurA がどのように BAM 複合体へ OMPを受け渡すのかはよく分かっていませんでした。本研究では、クライオ電子顕微鏡による構造解析と細胞を用いた機能解析を組み合わせて、SurA が BAM 複合体上でどのように構造を変化させ、OMP の受け渡しに働くのかを明らかにすることを目指しました。
【研究の内容】
SurA は Core、P1、P2 という複数のドメインから構成されます。本研究では、SurA の P1 または P2ドメインを決室させた変異体を用いた解析を行い、Core ドメインのみが SurA 機能に必須であり、P1および P2 ドメインが Core ドメインの機能を調節していることを見出しました。また、架橋解析から、SurA の P1 および P2 ドメインが BamA、BamB、BamE などの BAM 構成因子と直接相互作用することを示しました。
SurA の各ドメインがどのように BAM 複合体と相互作用し、基質受け渡しに関わるかを明らかにするために、SurA と BAM 複合体からなるタンパク質複合体を精製し、クライオ電子顕微鏡を用いて立体構造解析を行いました。その結果、SurA の P1、P2 ドメインの見え方が異なる 4 つの異なる構造、P1-visible、Core-only、P2-visible、P1/P2-visible 構造を決定しました(図2)。複数の構造が得られたことから、SurA は BAM 複合体に結合した状態で安定な 1 構造をとるのではなく、複数の構造状態の間を動的に変化すると考えられました。これらの 4 構造を比較すると、SurA の Core ドメインは BamAに結合したまま大きく位置を変えていました。また、P1 ドメインは BamB と相互作用しつつ、Core ドメインの基質結合部位を覆い塞ぐような配置にありました。P2 ドメインは BamE と相互作用しており、その相互作用を変異で損なわせると、外膜タンパク質の効率的な組み立てが低下しました。この結果は、P2 ドメインと BamE の相互作用が OMP の組み立てに重要であることを示しています。

以上の構造・機能解析を統合し、研究グループは SurA による OMP 受け渡しの動的モデルを提案しました(図3)。このモデルでは、SurA は BAM 複合体上で複数の構造状態をとりながら、P1 および P2ドメインと BAM の相互作用を巧みに利用して、Core ドメインの基質結合部位へのアクセスおよび Coreドメインの配置を調節すると考えられます。まず、P1 ドメインが移動することで、Core ドメインの基質結合部位が開き、SurA が OMP を保持しやすい状態になると考えられます。その状態で、P2 ドメインが BamE と相互作用することで SurA Core ドメインの配置が変化し、保持していた OMP が BAM 複合体の基質認識部位へ近づきます。その後、P1 ドメインが再び Core ドメインを覆うように移動することで、OMP が BAM へ受け渡され、外膜への組み込みが進みます。これら一連のダイナミックな構造変化により、SurA が OMP を BAM 複合体へ効率的に受け渡すことができると考えています。

【今後の展開】
本研究は、細菌の外膜タンパク質を運ぶシャペロンSurA が、BAM 複合体上で複数の構造状態を経たダイナミックな構造変化をして働く分子機構の一端を明らかにしました。BAM 複合体はグラム陰性細菌の生存に必須であり、外膜は抗生物質に対する重要な防御壁でもあります。BAM 複合体周辺でのSurAなどの関連因子の働きをさらに理解することは、細菌の外膜形成機構の基礎的理解を深めるとともに、将来的には外膜タンパク質の形成過程を標的とした抗菌戦略を考えるための基盤となることが期待されます。今後はSurA 以外の因子についても同様に研究を進めたいと考えています。
【用語解説】
注1 外膜タンパク質(OMP):グラム陰性細菌の外膜に密に敷き詰められているタンパク質。多くはβバレルと呼ばれる安定な樽状構造を形成し、物質輸送や外膜の維持などに働く。
注2 分子シャペロン:他のタンパク質が正しく立体構造を形成するのを助けるタンパク質。SurA は未成熟な外膜タンパク質をBAM 複合体まで運ぶ。
注3 クライオ電子顕微鏡:タンパク質の構造解析に広く用いられている、試料を極低温に冷却し、電子顕微鏡で観察する手法。X 線結晶構造解析では困難だった、結晶化が難しい大きなタンパク質複合体のさまざまな構造状態の解析に大きく貢献している。
【掲載論文】
タイトル:Cryo-EM structures of the SurA–BAM complex reveal conformational changes in outer membrane protein assembly
(SurA–BAM 複合体の複数のクライオ電子顕微鏡構造から明らかになった外膜タンパク質組み立てにおける構造変化)
著者: Ryoji Miyazaki, Hidetaka Kohga, Nami Matsuoka, Yuki Maruno, Wataru Yoshimoto, Yutaro S. Takahashi, Dede Heri Yuli Yanto, Yudhi Nugraha, Hideki Shigematsu, Takuya Shiota, and Tomoya Tsukazaki
(宮崎亮次, 甲賀栄貴, 松岡那実, 丸野友希, 吉本航, 高橋祐太郎, Dede Heri Yuli Yanto, Yudhi Nugraha, 重松秀樹, 塩田拓也, 塚崎智也)
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-76843-3
【構造生命科学研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses309.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/tsukazaki/
(2026年09月08日掲載)
奈良先端科学技術大学院大学