研究成果

研究成果

"青いトマト"に含まれる毒性成分をコントロールする遺伝子を発見 ~トマトやジャガイモの毒性成分の抑制に可能性~

"青いトマト"に含まれる毒性成分をコントロールする遺伝子を発見 ~トマトやジャガイモの毒性成分の抑制に可能性~ 

バイオサイエンス研究科植物細胞機能学研究室 庄司翼(しょうじ つばさ)准教授らは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、明治大学、理化学研究所、東京工業大学、筑波大学の研究グループとの共同研究で、トマトの毒性成分であるトマチンの蓄積量をコントロールする遺伝子を発見しました。この遺伝子は、トマチンの生成過程に関わるすべての遺伝子を統括する「マスター遺伝子」。今後、この遺伝子を使い、トマトやジャガイモなどに含まれる毒性成分の抑制への応用が期待されます。

庄司 翼准教授のコメント

 本論文は、筆頭著者であるChonprakun Thagunさん(大学院生)を中心に、数多くの共同研究者の協力のもとに進められた研究をまとめたものです。トマチン(トマト)やソラニン(ジャガイモ)に代表されるステロイ ド性アルカロイドは、数十段階にのぼるステップを経て合成される毒性成分です。今回、ほとんど全ての生合成酵素遺伝子を統括的に制御するマスター遺伝子を 発見しました。この成果は、毒性成分を抑制した品種の育種に応用が可能です。イスラエルの研究グループにより内容が重複する論文が2月に公表さ れたため、後塵を拝する形になりましたが、転写因子による遺伝子制御のメカニズムなどを、より強い証拠で固めることができました。多種多様な二次代謝産物の蓄積 も、実は、本研究で同定されたマスター転写因子を含む、比較的少数の共通因子によって制御されているのはないのかと考えています。今後、こうした天然物制御の鍵因子を明らかとし、代謝工学への展開を目指します。 

【概要】
  バイオサイエンス研究科植物細胞機能学研究室 庄司翼(しょうじ つばさ)准教授らは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、明治大学、理化学研究所、東京工業大学、筑波大学の研究グループとの共同研究で、トマトの毒性成分であるトマチンの蓄積量をコントロールする遺伝子を発見しました。この遺伝子は、トマチンの生成過程に関わるすべての遺伝子を統括する「マスター遺伝子」。今後、この遺伝子を使い、トマトやジャガイモなどに含まれる毒性成分の抑制への応用が期待されます。
 
 トマトやジャガイモなどに代表されるナス科植物(*用語解説参照)には毒を含むものが多く存在します。なかでも、トマトの青い果実やジャガイモの塊茎から出る芽には、それぞれトマチンやソラニンなどの毒性グルコアルカロイド(*)が含まれており、しばしば食中毒の原因となっています。

 今回、同じナス科植物であるタバコの毒性成分であるニコチン(*)の量をコントロールする遺伝子と、構造的によく似た遺伝子(JRE4)をトマトから発見。このJRE4遺伝子は、トマチンを作る過程の反応を担う数多くのタンパク質の蓄積を統括的に調節する"オーケストラの指揮者"のような働きを持つマスター遺伝子であることを明らかにしました。
 
 また、ニコチンとトマチンが作り出されるメカニズムはそれぞれ全く異なっています。今回の研究で、異なる合成メカニズムをもつ毒性成分が、意外にも、共通のマスター遺伝子によって支配されることが示されました。この成果は平成28年4月16日(日本時間)に植物科学分野の国際誌「プラント・セル・フィジオロジー」(電子版)に掲載されました。 

【解説】
 "青いトマトやジャガイモの芽は食べていけない"ということは、よく知られています。これは、トマチン(トマト)やソラニン(ジャガイモ)などの毒性グルコアルカロイド成分が、これらの非食組織に多く蓄積されるからです。トマチンなどの毒性グルコアルカロイドは、比較的単純な前駆体物質であるアセチルCoAを出発点に、数十段階の反応を経て合成されます。今回、これらの反応を担う数多くのタンパク質の蓄積を、統括的に支配する"司令塔役"の遺伝子を発見しました。 

【背景】
 植物は毒性成分を合成・蓄積することで、自らの身を昆虫や動物などから守っています。例えば、タバコ植物が作るニコチンは、喫煙習慣性の原因物質でもありますが、植物にとっては重要な防御物質です。以前、我々は、ニコチン量が低下したタバコ品種を調べることで、ニコチン合成を統括的にコントロールするマスター遺伝子をタバコから発見しました。このタバコ遺伝子と同種の遺伝子が、ニコチンを作らないトマトにも存在することから、今回、その遺伝子の働きを解析しました。 

【実験の手法と結果】
 トマトの全ゲノム遺伝子配列情報を検索してみると、以前、我々が報告したニコチン量をコントロールするタバコ遺伝子と構造的によく似た遺伝子JRE4がトマトにも存在することが分かりました。そこで、ニコチンを合成しないトマトにおいて、JRE4遺伝子は一体何をしているのかを調べることとしました。

 遺伝子組換えトマトを用いた実験で、JRE4を過剰に発現させたり、逆にその機能を強制的に抑制したりしたところ、トマトの毒性グルコアルカロイドであるトマチンの合成に関わるほとんど全ての酵素遺伝子の発現が促進されたり、抑制されたりすることが分かりました。また、こうした遺伝子の発現の変化を反映して、トマチン量も増減していました。JRE4遺伝子がコードする転写因子は、酵素遺伝子の転写を開始するプロモーター領域に直接結合することで、酵素遺伝子の転写、発現を促していることも示されました。 

【意義と今後の展開】
 トマチンの合成全体を指揮する司令塔遺伝子が発見されたことで、この遺伝子を標的とした変異系統の迅速な選抜や遺伝子機能の人工的な改変により、毒性成分の低いトマト系統の育種が可能となりました。また、トマトのトマチンのみならず近縁種であるジャガイモが蓄積する類縁成分ソラニンなどにも、同様の手法が応用可能です。

  多種多様の植物毒が知られており、それぞれ特定の種や科に分布していることが知られています。今回、ニコチン(タバコ)とトマチン(トマト)という化学構造も合成様式なども全く異なる植物の毒性成分が、実は、共通のマスター遺伝子によってコントロールされることが分かりました。雑多な毒性成分の合成も、そのコントロールは、特定の司令塔役遺伝子に依存している可能性が高いことが分かりました。 

【発表論文】
タイトル:Jasmonate-responsive ERF transcription factors regulate steroidal glycoalkaloid biosynthesis in tomato.
論文の書誌情報:Chonprakun Thagun, Shunsuke Imanishi, Toru Kudo, Ryo Nakabayashi, Kiyoshi Ohyama, Tetsuya Mori, Koichi Kawamoto, Yukino Nakamura, Minami Katayama, Satoko Nonaka, Chiaki Matsukura,、 Kentaro Yano, Hiroshi Ezura, Kazuki Saito, Takashi Hashimoto, and Tsubasa Shoji; Plant & Cell Physiology, published on line 15 April 2016
以下に掲載されております。
http://pcp.oxfordjournals.org/content/early/recent
naistar:http://library.naist.jp/dspace/handle/10061/10476
(NAIST Academic Repository :naistar) 

【参考図】






















【用語解説】
ナス科植物
 主に中南米を原産地とする一群の植物種。トマトやジャガイモを始め、ナス、トウガラシ、ペチュニア、タバコなど、多くの主要農作物が、この植物群に含まれています。

毒性グルコアルカロイド
 トマトのトマチンやジャガイモのソラニンなどに代表される一群の化合物の総称。脂質成分であるコレステロールに由来するステロイド骨格をもち、分子内に窒素原子を含んでいます。また、ステロイド骨格の水酸基には糖鎖が付加されています。一般に、強い細胞毒性を示し、ヒトのみならずさまざまな生物に対して毒性を示します。これら成分を合成、蓄積することで、植物は昆虫やその他の動物などの外敵から、自らの身を守っていると考えられています。

ニコチン
 タバコの毒性成分であり、喫煙の習慣性の原因物質です。アミノ酸やその類縁体(オルニチン、アスパラギン酸)から合成されます。ニコチンと毒性グルコアルカロイドは、分子内に窒素原子を含む点や毒性成分である点では似ていますが、その他の化学構造上の特徴や合成メカニズムなどは、全く異なっています。

【植物細胞機能】

研究室紹介ページ:http://bsw3.naist.jp/courses/courses103.html
研究室ホームページ:http://bsw3.naist.jp/hashimoto/

(2016年04月28日掲載)

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