研究成果

研究成果

佐藤匠徳(Thomas N. Sato)教授が、上原記念生命科学財団研究助成対象者に選ばれました

生体機能制御学講座の佐藤匠徳(Thomas N. Sato)教授が、上原記念生命科学財団研究助成対象者に選ばれました。上原記念生命科学財団研究助成金は、生命科学、医学研究で独創性、発展性、実現性および適時性の優れた研究に対するものです。

助成受託のコメント

この度、上原記念生命科財団からの研究助成金を頂くことになり、財団および私を推薦して下さった奈良先端大学院大学に感謝いたします。この助成金を有効に活用し、さらなる研究の発展を目指したいと思います。

助成受託研究テーマ

「心筋梗塞における線維化制御機構の解明」

心臓の機能障害は現代社会において最も多い疾患の一つである。この、心機能の異常に至るコンディションのひとつに心筋梗塞がある。心筋梗塞は冠動脈の血流が途絶されることにより心筋が虚血状態になり壊死してしまう疾患である。虚血状態が持続することにより心筋が経時的に死んでいき、心機能が低下する。さらには、壊死した心筋細胞の跡を埋めるようにコラーゲンの蓄積がおこり心臓の線維化が起こる。この線維化は心筋細胞死後の心臓の心破裂を防ぐ反面、心筋の硬化を招き、心臓機能を妨げる。この心機能低下が持続すると心機能障害を補うように心臓の肥大がおこる。この一連のプロセスの分子レベルでの解析は数多く報告されている。特に、心筋梗塞に伴う心筋の壊死のメカニズムに関する研究は活発に行われており、最近では、心筋の壊死を防ぐ因子の発見、また幹細胞を使っての心筋再生医療などの研究が急速に進んでいる。また、梗塞を起こした心臓において血管新生を促進することにより、心機能の回復を促進する治療法の開発などの研究も近年盛んに行われている。しかし、このような心筋機能再生も、過剰な線維化によって妨げられる。そこで、線維化をコントロールすることが重要であるが、心筋梗塞後の線維化のメカニズムに関する分子レベルでの研究は心筋再生の研究に比較してかなり遅れているのが実情である。

そこで我々は心筋梗塞に伴う線維化を制御しているシグナリング因子の同定・解析を行った。その結果sFRP2を心筋梗塞における組織の線維化を制御している新規の因子として発見した(図1)。sFRP2は従来Wntに直接結合することによりWntシグナルを抑制する細胞外因子として知られている。しかしながら、我々は、sFRP2がBMP1に直接結合することにより、BMP1がコラーゲン前駆体をプロセッシングすることによるコラーゲンの成熟化を担う機能を促進するという新たな機能を見出した。また、このsFRP2の新たな機能が心筋梗塞に伴う心臓の線維化を促進するという役割を持つことを示した。さらに、驚くことに心筋梗塞を起こしたsFRP2欠損マウスでは線維化が減少するだけでなく、梗塞を起こした正常マウスに比べて心機能の顕著な改善が認められた。心筋梗塞による心筋の壊死は梗塞後24時間以内で誘導され、その数日後から1-2週間かけて、経時的に線維化が進行する。この線維化の時期に特異的にsFRP2の発現レベルは数十倍に増加することをも我々は見出した。

Wntシグナリングは心筋の壊死・再生またBMP1シグナリングは線維化にそれぞれ深く関わっていることが知られている。したがって、これら両方のシグナリング経路を制御する重要因子の一つであるsFRP2は心筋梗塞に伴う心筋の壊死及び線維化両方に密接に関わっているという可能性が考えられる。そこで、我々はsFRP2がどのようなメカニズムで心筋梗塞後の線維化及び心筋壊死による心機能低下を制御しているかを分子レベルで解明することが次のステップとしてもっとも重要な課題であると考える。したがって、本研究では、sFRP2の心筋梗塞における制御機能の分子レベルでのメカニズムを明らかにすることを目的とする。


(図1) XBP1前駆体メッセンジャーRNAのスプライシング反応の模式図

関連する論文

K. Kobayashi, M. Luo, Y. Zhang, D.C. Wilkes, G. Ge, T. Grieskamp, C. Yamada, T-C. Liu, G. Huang, C.T. Basson, A. Kispert, D.S. Greenspan, T.N. Sato (2009) Secreted Frizzled related protein 2 is a procollagen C-proteinase enhancer with a key role in fibrosis associated with myocardial infarction. Nature Cell Biol. 11:46-55. (published online on Dec. 14, 2008; Selected as an issue Highlight; Featured in News and Views).

(2010年02月17日掲載)

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