研究成果

研究成果

高木博史教授が財団法人エリザベス・アーノルド富士財団の研究助成対象者に選ばれました

7月8日付けで、細胞機能学講座の高木博史教授が財団法人エリザベス・アーノルド富士財団の研究助成対象者に選ばれました。本助成は、パン用国産麦の品種改良、製パン技術の向上発展などに関する研究を対象としており、高木教授は製パン用原料及び素材の開発、改良に関する分野の優れた研究として2年連続で採択されました。

助成受託のコメント

財団法人エリザベス・アーノルド富士財団は米国のArnold社と日本のフジパンによって設立され、パン酵母のような製パン用原料の開発、改良に関する研究などに助成金を交付しています。私は以前に大手食品企業で「コンビニ向け冷凍パン生地」の製造会社の立ち上げに関わりましたが、評価用に作製した焼きたてのパンを皆が美味しそうに食べる光景を今も鮮明に覚えています。その時の達成感がきっかけで、その後大学に異動すると、パン酵母の細胞が冷凍等のストレスにどのように応答し、耐性を獲得するかについての研究テーマを学生と始めました。現在、遺伝子組換え技術によって育種したパン酵母は、依然として社会的受入れが困難な状況にありますが、パン酵母の高付加価値化に分子生物学的手法は欠かせない技術の一つです。今後、2年連続で頂いた助成金を有効活用し、私たちが育種したパン酵母の実用化を目標に、さらなる研究の発展を目指したいと思います。

助成受託研究テーマ

抗酸化能の向上した高機能型アセチル化酵素Mpr1による冷凍・乾燥耐性パン酵母の開発

パン酵母は製パン過程において、冷凍、高温、乾燥、高浸透圧など過酷な環境に曝されています。特に、冷凍生地やドライイーストの製造では、細胞内は活性酸素種(ROS)が発生する酸化ストレス状態であり、有用機能(炭酸ガスの発生、味・風味物質の生成)が制限されます。したがって、パン酵母への高度な酸化ストレス耐性の付与により、長期保存に適した冷凍生地用パン酵母、およびドライイーストの開発が可能になります。私たちが酵母に発見したN-アセチルトランスフェラーゼMpr1は、高温、冷凍、乾燥などの処理で生じるROSを制御し、パン酵母を酸化ストレスから保護しています(図A)。昨年の助成研究では、抗酸化能の向上した高機能型Mpr1をパン酵母で発現させ、乾燥後の発酵力が親株に比べ向上することを見出しました(図B)。また、私たちは抗酸化能を有するプロリンを蓄積するパン酵母を作製し、冷凍後の発酵力が向上することを報告しています(図C)。そこで、本研究では、プロリン蓄積パン酵母で高機能型Mpr1を発現させ、Mpr1とプロリンの相加効果を実証します。


【図の説明】
A:N-アセチルトランスフェラーゼMpr1による酸化ストレス耐性機構のモデル図
B:親株(WT)に比べて高機能型Mpr1発現株(K63R, F65L)で作製したパン生地は乾燥後の発酵力が高い。
C:親株(WT)に比べてプロリン蓄積株(PRO1-WT/Δput1, pro1-D154N/Δput1, pro1-I150T/Δput1)で作製したパン生地は冷凍後の発酵力が高い。

関連する論文
  1. Y. Sasano, S. Takahashi, J. Shima and H. Takagi (2010) Antioxidant N-acetyltransferase Mpr1/2 of industrial baker's yeast enhances fermentation ability after air-drying stress in bread dough. Int. J. Food Microbiol., 138, 181-185.
  2. K. Iinoya, T. Kotani, Y. Sasano and H. Takagi (2009) Engineering of the yeast antioxidant enzyme Mpr1 for enhanced activity and stability. Biotechnol. Bioeng., 103, 341-352.
  3. T. Kaino, T. Tateiwa, S. Mizukami-Murata, J. Shima and H. Takagi (2008) Self-cloning baker’s yeasts that accumulate proline enhance freeze tolerance in doughs. Appl. Environ. Microbiol., 74, 5845-5849.
  4. T. Sekine, A. Kawaguchi, Y. Hamano and H. Takagi (2007) Desensitization of feedback inhibition of the Saccharomyces cerevisiae -glutamyl kinase enhances proline accumulation and freezing tolerance. Appl. Environ. Microbiol., 73, 4011-4019.

(2010年07月20日掲載)

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