主な研究テーマ
「植物がさまざまな環境に適応して、花をつくるかたちづくりのしくみを明らかにし、地球温暖化の今日における食糧の増産・安定供給に社会貢献する」
私達はこれまで、有限成長をする花において幹細胞の増殖と分化をつかさどる時空間特異的な遺伝子発現には、クロマチンレベルの制御が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきました。今後は植物の花発生における時空間特異性の制御機構にあわせて、複数の遺伝子産物が調和的に機能する機構、さらには花発生経路の可塑性と頑強性の理解を進めていきます。花の形作りの原理を解明することで、植物分野だけではなく動物の研究者の方々にも注目してもらえるような研究を世界に発信していくことを目指しています。日本の花発生研究の中心地となれるよう、学生さん達を大募集中です。
RESEARCH 1
幹細胞の増殖・分化・老化の制御機構
花幹細胞の増殖は多くの転写因子による複数の遺伝学的な経路により抑制されています。それらの転写因子のターゲット遺伝子を同定し、時空間特異的な発現制御機構とターゲット因子の作用機構の研究を行います。[図1]これにより、花幹細胞の増殖抑制経路における植物ホルモンおよびエピジェネティックな制御機構を解明していきます。また、幹細胞から特殊な機能を持つ細胞(虫をおびき寄せる蜜腺細胞や逆に虫の食害を防ぐミロシン細胞など)が分化してくる分子経路を明らかにします。さらに、分化した花器官を作る細胞や茎の幹細胞がどのように、老化して細胞の一生を終えるのかを解明します。可視化解析、数理解析、合成生物学的解析を含めた包括的な解析により、幹細胞の増殖と分化と老化における調和と可塑性、頑強性の機構を分子レベル、細胞レベル、個体レベルで理解することを目指します。[図2]
図1 花幹細胞の遺伝学的解析
花幹細胞は複数の制御因子の多段階の反応により制御されており、これらの変異により、非常に大きな種なしの花となる
RESEARCH 2
環境応答と記憶・忘却の制御機構
植物は、動物とは異なり、環境変動に対して非常に柔軟に応答し、その環境に適応します。高温条件下で活性の高まるヒストン修飾酵素の作用機構などに着目し、植物が環境に対応して、その情報を記憶してメリステムの挙動、分化の様式を変換する機構および、記憶が消去される機構の解明を目指します。さらにこれらの知見を利用して、農業的な視点からより効率的な農作物の開花、結実時期の調節を可能とする基盤技術の構築も目指します。
時空間特異的な動的ネットワークの包括的解析を通して、調和的に機能する発生制御機構、環境変動に応答する花発生経路の可塑性と頑強性の解析を行います。さらに環境応答や順化の知見も合わせ活用することで植物生長を最適化する基盤技術の構築を目指します。
図2 花発生研究のアプローチ法(左)と植物生長の最適化(右)の模式図
RESEARCH 3
有性生殖におけるエピジェネティック制御機構
アブラナ科植物の自家不和合性に関わる花粉因子には、複雑な優劣性が存在します。また、異なる親同士を交配して得られる雑種第一代は親よりも優れた形質を示すという雑種強勢が見られます。さらに種子では、父方・母方遺伝子の拮抗的な作用機構があり、これらを制御するエピジェネティック機構の解明を目指します。
図3 ゲノムインプリント機構による種子サイズ制御(上)および雑種強勢(下)