有性生殖におけるエピジェネティック制御機構

有性生殖におけるエピジェネティック制御機構

花は植物にとって有性生殖の場であり、より優れた子孫を残すために巧妙な仕組みを持っています。それらは塩基配列以外の情報であるエピジェネティックな制御を受けています。その仕組みについて、3つの現象に着目した研究を進めています。

雑種強勢

雑種強勢とは、純系の親と別の純系の親とを掛け合わせて得られる雑種第一代(F1)が優れた性質を示す現象です。それぞれの親ではゲノム配列が異なっており、それが雑種で組み合わさることで雑種強勢が起きると考えられています(図1)。アブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナでは、野生系統を交配して得られる雑種に雑種強勢が見られます(図2)。多くの野生系統のゲノム解読が完了しているため、この情報を用いて機構を調べています。解明された機構は、ハクサイやカブなどアブラナ科野菜の育種への応用が期待されます。

図1 提唱されている雑種強勢機構

図2 シロイヌナズナ野生系統間における雑種強勢

優劣性

有性生殖により生まれる子孫は、父親のゲノムと母親のゲノムを半数ずつ持ちます。つまりそれぞれの遺伝子を2つずつ持ちますが、このとき、どちらかの親の遺伝子のみが働く優劣性がみられる場合があります(図3)。菜の花として知られるアブラナ科植物在来ナタネにおいては、このような優劣性が低分子RNAを介してエピジェネティックに制御されています(図4)。この優劣性を人為的に操作する研究を進めています。

図3 優劣性

図4 エピジェネティック優劣性モデル

胚乳発達

被子植物では有性生殖により種子が作られます。種子には次世代となる胚と、胚に栄養を供給する胚乳が含まれます。また、コメやコムギ、トウモロコシの胚乳は、私たち人類の2/3の主食です。この胚乳は、両親の相反する作用により発達が制御され、父親は発達を促進し、母親は抑制しています。この作用は父方インプリント遺伝子や母方インプリント遺伝子により担われます(図5)。父親が胚乳発達を促進する機構の解明について研究を進めており、食糧問題の解決に役立てることを目指しています。

図5 胚乳発達に対する両親の拮抗的作用