NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

セミナー情報

胃組織作製方法の開発とその応用

演題 胃組織作製方法の開発とその応用
講演者 講演者:栗崎 晃 博士
(産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 上級主任研究員)
使用言語 日本語
日時 2016年10月12日(水曜日) 10:00~11:00
場所 バイオサイエンス研究科 大セミナー室
内容 近年再生医療や創薬研究に利用することを目指して、iPS細胞やES 細胞などの多 能性幹細胞から様々な生体組織をin vitroで作製する研究が進められている。このよう な多能性幹細胞は強力な分化能を有しており、分化能をうまくコントロールすることで 目的組織細胞を作り出すことが可能である。これまで多能性幹細胞を用いて神経、膵 臓β細胞、心筋細胞、肝細胞を始めとして様々な細胞の分化方法の開発研究が進め られている。特に、初期消化管から発生する膵臓のβ細胞や肝蔵の実質細胞について はその分化方法の開発が当初から先行しており、実用的な細胞調製方法に近づきつ つある。また、腸や肺組織の作製方法についてもここ数年間で急速に検討が進んでき ているが、胃組織についてはこれまでほとんど検討されてこなかった。 我々は昨年、上皮と間葉組織両者を併せ持つ胃組織に似た立体構造体(胃オルガノ イド)を誘導する分化方法を報告した。特に初期発生段階で胃予定領域の間葉で発現 する転写因子Barx1と胃上皮細胞で発現するSox2やEpcamを胃組織の初期分化 マーカーとして用いることで、胃組織をin vitroで分化させる条件を最適化し、胃の前腸 予定領域全体を誘導することができた。さらに3次元培養でこの胃原基組織を成熟化 させることにより、粘液細胞や胃腸内分泌細胞に加えて、胃体部で観察されるH+/K+- ATPase陽性の壁細胞、ペプシノゲン陽性の主細胞の存在を確認することができた。 また、このようにして分化させた機能的な胃上皮組織の周りには蠕動運動を引きおこ す筋肉組織を伴っており、胃組織全体の分化を試験管内で再現できたと考えられる。 また、本分化法を活用することで、胃の疾患モデルの一例として前がん状態として知ら れるメネトリエ病モデルをin vitroで作製可能であることを示した。本研究はマウスES 細胞を用いた胃組織分化法であるが、現在ヒト多能性幹細胞を用いた分化方法の最 適化に取り組んでおり、ヒト疾患モデルを用いて病態解明や治療薬評価系への応用を 検討していきたいと考えている。今後本セミナーでは、我々の研究室で行われている 研究の未発表データと将来への展望を含めて議論したい。
問合せ先 構造生物学
箱嶋 敏雄 (hakosima@bs.naist.jp)

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