奈良先端大学には、川の流れに沿った「ニュートン通り」という眺めの良い遊歩道があります。川の最上流は浴場になっていて、アルキメデス(BC287-212)がくつろいでいます(図)。ご存知「アルキメデスの原理」は自然現象を定量化・数式化した初めての法則と言われています。その後、自然現象の定量化と数式化が科学の発展にもたらした恩恵は計り知れません。
ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)は、アルキメデスのやり方を応用して、物体が落ちる様子を厳密に定量しました。そしてこれを数式で表したものが、落下の方程式d = g/2・t2 です。また、ヨハネス・ケプラー(1571-1630)は、ティコ・ブラーエが厳密に計測した惑星の運行データをもとに、驚くべき几帳面さで惑星軌道の方程式T2/r3 = aを導きだしました。この2つの方程式を統合して、万有引力の法則F = G・mm’/r2 を導き出したのがご存じニュートン(1642-1727)です。このように、自然現象を厳密に定量化して数式化することによって、物理学は大きく発展しました。
それでは生物学はどうでしょうか?最近、生物学と数理科学を組み合わせた新しい融合領域が生まれつつあります。私たちは、以上のような計測と数理解析を生物学に導入した「定量的なシステムバイオロジー」を目指しています。定量的システムバイオロジーが新しい生物学のように言ってしまいしたが、そうではありません。メンデル(1822-1884)は、物理学者ドップラーから自然現象を定量的・数理的に解析する方法を学びました。彼の研究手法は、まさに定量的システムバイオロジーです。エンドウの交配実験を辛抱強く続け、その結果を定量的・数理的解析した結果、メンデルの分離の法則 3:1 が導き出されました。また、ホジキンとハクスレ―の神経活動電位の研究1も定量的システムバイオロジーです。これらの研究からも、定量的システムバイオロジーが、今後、生物学に大きな発展をもたらす可能性が期待されます。
現在、顕微鏡技術が大きく発展してきて、細胞や組織の定量的なライブデータを取得することが可能となってきました。また、コンピュータ技術の発展により、大量データの処理と複雑な方程式を解くことも可能です。このようなタイムリーな時期だからこそ、私たちは、生物の形づくりを理解するためにアルキメデスから始まったこの強力な研究手法を積極的に取り入れています。
Shootin1による軸索形成過程(左)を数理モデルで記述する(右)(業績4)
アクチン波による軸索輸送を数理モデルで記述する(業績2)