NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究室・教員

卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -

山本 穂高 (やまもと ほだか)さん

  • 中外製薬株式会社トランスレーショナルリサーチ本部安全性バイオサイエンス研究部
  • 2022年度(博士) 遺伝子発現制御

飛躍のきっかけをくれたNAIST

山本 穂高さんの近況写真

 「楽しんで研究したらええ」
 この言葉を聞いたのは初めて私が奈良先端大を訪れ、遺伝子発現制御研究室の研究室訪問をして別所先生とお話したときでした。この言葉の意図を当時は分かっていませんでしたが、今となっては私の研究に取り組む指針になっているように思います。

 iPS細胞が2012年にノーベル賞を受賞し、細胞の分化や組織の再生に興味を持っていた学部生時代の私は、そのもう一歩先、ただ細胞が分化するだけでなく、いかに生体や組織、細胞の集団は秩序立ったふるまいをするのか、を明らかにしようとする別所研の研究内容に共感して、奈良先端大への進学を決めました。

 修士の頃、別所研には朝ミーティングという文化がありました。各学生は月1回、朝早くから別所先生の教授室に今月の進捗を持っていきます。そこには別所先生をはじめとしてスタッフ全員がそろっており、様々な角度から意見をいただくという会でした。朝ミーティングが終わったら、次の朝ミーティングを乗り切るために実験を考える、楽しんで研究するとは一体何だったのか…と思うほどの日々でした(この朝ミーティングについては、偉大な先輩として当時から名前を聞いていた増田美和さん、同時期に在籍していた高橋麻美さんの記事でも触れられています)。コロナ禍で密を回避するという観点より、私の博士時代にはこの文化は途絶えてしまったのですが、今思えば私の研究の下地はここで鍛えられたのかもしれません。

 朝ミーティングがなくなっても、指導してくださった秋山先生、松井先生は何時間でも議論に付き合ってくださいました。日付が変わることも珍しくなかったように思います。特に痛烈に記憶に残っているのは博士1年の頃、なかなか結果が出ず苦しんでいる時に松井先生にもっと周りに頼れと、研究だけでなく精神面でも指導を受けたことでした。詳しいエピソードは恥ずかしいので伏せますが、私が成長する大きなきっかけになったことは間違いありません。周囲を頼って、巻き込むことができるようになってから、私は研究の面白さを再発見できたように思います。つまり、ミーティングに追われて実験をやらされるのではなく、自発的にやりたいと思える研究に打ち込むこと、それを積極的に発信して周囲を巻き込んで進めていくことが「楽しんで研究する」ということではないかと気づいたのです。

 私は現在、中外製薬の安全性バイオサイエンス研究部に所属しています。研究所には私とは比べ物にならないくらい華々しい経歴の持ち主がたくさん在籍しています。入社当初はなぜ私が採用されたのだろう?と思っていたのですが、今振り返ると、面接のときに取り組んでいる研究内容を紹介して、「君はこの研究のどこを面白いと思っているの?」と聞かれ、自分の当時思っていた面白さを緊張しながらも自分の言葉でちゃんと伝えられたからではないかと思います(真相は分かりませんが…)。

 今の業務は主に新薬候補化合物の遺伝毒性評価と新しい評価法の確立です。安全性の仕事は多くの毒性に分類され、神経、心循環器、呼吸、生殖発生、肝臓、腎臓…等全身の臓器にそれぞれの専門家がいます。奈良先端大での研究内容から神経か発生か…と思っていた私に上司が告げたのはなんと遺伝毒性。遺伝毒性はDNAや染色体の構造や量を変化させる性質を調べる分野です。別所研は遺伝子発現制御研究室という名前でありながらDNAや変異を研究対象にしているわけではなかったので遺伝毒性とは一体何ぞや?という状態からスタートしましたが、全力で与えられたテーマに取り組み、面白さを見つけ出すこと、周囲を積極的に巻き込んでいくことでなんとか2年経ち、徐々に自分のしたい研究ができるようになってきました。

 これから奈良先端大を受験される方、今奈良先端大で研究をされている方が読んでいらっしゃれば、目の前にある物事に面白さを見つけて、それに打ち込んでみてください。その時に、一人にならずに周囲の助けをガンガン借りて巻き込んでいくことが、将来を開くきっかけになると思っています。奈良先端大はその時に、一緒に進んでくれる先生や仲間がいるとても恵まれた環境です。ぜひ奈良先端大で自分の可能性を大きく広げてください。
 

【2025年04月掲載】

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