研究室・教員

卒業生の声 - 拡がるNAIST遺伝子 -

矢野 実 さん

就職先
MBL・(株)医学生物学研究所
修了年度
1995年度(修士) 生体情報学

シンプルな記号(=ATGC)の集積である配列情報で生命の設計図(=ゲノム)を
記述するという点で、バイオインフォマティクスは魅力的な世界でした。

矢野 実さんの近況写真

私は、1994年入学の1期生です。NAISTでは生体情報学講座・森研究室に所属し、研究テーマは「大腸菌ゲノムデータベースの構築」でした。今で言うバイオインフォマティクスですが、当時は、コンピューターで生物学の研究、というのはとても珍しいことでした。

大学ではもともと物理学専攻を希望していましたが、生化学・分子生物学の自主ゼミに参加して4つの塩基から遺伝情報が成り立っていることを知り感激し、3回生の時に分子生物学を専攻に決めました。4回生の卒業研究では分裂酵母のゲノム解析プロジェクトに関わりシークエンサーで配列を決定する作業を行い、DNA配列データと戯れる(?)楽しさを経験しました。大学入学の時に物理学を専攻しようと思ったのは、シンプルな公式で世界を記述する、という高校物理の世界が楽しかったからです。バイオインフォマティクスも、シンプルな記号(=ATGC)の集積である配列情報で生命の設計図(=ゲノム)を記述するという点で、私にとっては同じように魅力的な世界でした。

大学卒業後、バイオインフォマティクスをテーマにできる研究室を探し、大腸菌ゲノム全配列解読プロジェクトを行っていた森さんが着任するNAIST へ進学を決めました。プロジェクトの一員になり、Genbankデータベース上にある大腸菌由来の配列の整理し、プロジェクト内で新規に解読される配列と統合し、ゲノムDNA配列データベースを構築しました。そこから既知および新規のOpen Reading Frameを網羅的に抽出し、タンパク質データベースとホモロジー検索を行い、遺伝子データベースも作成しました。当時は網羅的な解析ができるソフトウエアや、Webベースの便利な解析ツールがほとんどありませんでした。UNIXマシン上で、配列整理や相同性検索を半自動的に行うプログラムを、自己流で自作していたことが思い出されます。

もうひとつ、NAISTでの生活で記憶に残っていることは、いろいろな自主親睦イベントを企画したことです。何がきっかけであったか忘れてしまいましたが、研究科全体の親睦のために何かしようと、研究室横断的に集まった有志でソフトボール大会を企画しました。大会やるならトロフィーも用意しようと教官にスポンサーをお願いするなど、盛り上げるためにいろんな工夫をしました。その結果、複数研究室合同のチームも含め、ほとんど全ての研究室に参加してもらうことができ、試合はもちろんのこと、決勝戦の後のグラウンドで大宴会も大いに盛り上がりました。今でもソフトボール大会は伝統行事として続いているそうですね。その他、2期生の歓迎行事として、先輩である1期生による研究室紹介、ロビーでの歓迎大宴会の企画なども行いました。このような親睦活動が、設立されたばかりのバイオサイエンス研究科に縦串、横串、そして斜め串を通し、NAISTを活性化させ、最終的にNAISTの研究活動に(間接的にではあっても)貢献できていたのであれば、とてもうれしく思います。

NAISTでの修士課程修了後は、診断薬・基礎試薬メーカーである株式会社医学生物学研究所(MBL)に入社しました。研究開発部、米国MBA留学、研究子会社、総務部などいろいろな部署・職種を経て、現在は基礎試薬事業部で米国Integrated DNA Technologies社(IDT社)のカスタムDNA/RNA合成製品・サービスを担当しています。NAISTを修了してからは、大学院で学んだバイオインフォマティクスがメインではない業務を続けてきましたが、10年経って、またDNA配列の世界へ戻ってきました。お客様への日常的な対応から仕入先の米国IDT社とのビジネスの構築まで、個々のDNA合成の案件から製薬企業との大きなプロジェクトまで、業務範囲・業務内容はとても広いです。学生時代、そして会社に入ってから今までの各部署・職種での知識と経験をフルに活用しています。

現在の私の業務は、技術者・研究者の皆さんに試薬を提供する業務、すなわちサイエンスへの関わりは直接的ではなく間接的です。しかし、バイオサイエンスが社会へ与えるインパクトへの興味は、学生時代から引き続き持ち続けています。今は特に、合成生物学・Synthetic Biologyに興味を持っています。研究者の皆さんへは釈迦に説法かもしれませんが、DNA合成の世界ではPCRプライマーなどに用いられる1本鎖 DNAの合成だけにとどまらず、遺伝子のDNA断片を配列情報のみから作る人工遺伝子合成、そしてバクテリアゲノムの人工合成も可能な時代になりました。また、人工合成した遺伝子などを駆使して競う、バイオテクノロジー版ロボットコンテスト(ロボコン)的なイベントも開催されているそうです。倫理面や安全面の問題を憂慮しなければならない側面はあるものの、合成生物学は今後かならず発展していく技術・分野です。私も、この技術・分野に関わるサービスの提供を通じて、サイエンスや産業の発展に貢献していきたいと思っています。その中で、今後もNAISTの皆さん、NAISTとつながりのあった皆さんと出会えること、楽しみにします。

写真:米国Integrated DNA Technologies社のアジア担当Mark T. Campbellさんと、2009年12月の分子生物学会年会にて。

【2010年01月掲載】

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