NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

大津厳生助教が財団法人 タカノ農芸化学研究助成財団の「若手研究助成」対象者に選ばれました

ストレス微生物科学研究室の大津厳生助教が財団法人 タカノ農芸化学研究助成財団の「若手研究助成」対象者に選ばれました。本研究助成は、農学、特に農芸化学(生物資源等)に関する研究に対し、研究費助成を行うことにより、納豆菌等微生物の特性・生成酵素等の学術研究の発展に寄与することを目的とするものです。

財団法人 タカノ農芸化学研究助成財団のホームページ

助成受託のコメント

この度、財団法人 タカノ農芸化学研究助成財団より研究助成に採択していただき、大変感謝いたします。この助成金を有効に活用し、さらなる研究の発展を目指したいと思います。

助成受託研究テーマ

『枯草菌のBdbC-BdbD-UQ酸化システムを利用したシステイン発酵生産への挑戦』

これまでに細菌、カビなどで、システイン(Cys)により、その生育が阻害されることが知られている。しかしながら、その理由は全く分かっていない。大腸菌のペリプラズムにはジスルフィド結合導入酵素としてDsbAが存在し、基質を酸化し還元型となったDsbAのシステインペアは、内膜タンパク質DsbBにより再酸化される。DsbBが受け取った電子は呼吸鎖成分であるユビキノン (UQ) に受け渡され、最終的にはチトクロム酸化酵素を介して酸素が電子受容体となることがが知られている。応募者は大腸菌(グラム陰性細菌)を用いてDsbAがCys耐性に関与すること(Appl. Microbiol. Biotech., 81, 903-913, 2009)、さらに還元ストレス(Cys, DTTなど)により還元型DsbAがペリプラズムに蓄積することを見出している。私たちは毒性のあるCysを酸化環境であるペリプラズムに一度排出し、DsbA-DsbB-UQ酸化システムによりシスチンに酸化し、再度細胞内に取り込む機構の存在を示唆する知見を得ている。そこで外膜をもたない枯草菌(グラム陽性細菌)を用いて大腸菌のホモログであるBdbC-BdbD-UQ酸化システムにより、シスチンに効率よく変換し直接培地に分泌できると考えた。また、大腸菌では全く知られていない、シスチン取り込みに関与するトランスポーターについても枯草菌で既によく知られている。その破壊株と組み合わせることで、効率の良いCys発酵生産の確立を目指します。
システイン(Cys)はタンパク質の構成成分としてジスルフィド結合を介した立体構造の維持、SH基の酸化還元反応による生体成分の代謝など生理的に重要なアミノ酸であり、また、食品・飼料添加物、美容・化粧品素材、医薬品などの工業原料に広く用いられている。現在、Cysはおもに毛髪や羽毛の酸加水分解物からの抽出法により製造されており、加水分解に用いる濃塩酸を含む廃液処理に伴う環境負荷という問題がある。応募者はこの問題を解決する製造方法として微生物によるグルコースからの直接発酵法の確立をめざしている。

【 これまでの研究成果(着想に至った経緯)】
これまでに、大腸菌を材料に以下の成果を得た。

1)大腸菌の非必須遺伝子欠損株ライブラリー(Keio collection)の中から、Cys耐性に関与する外膜タンパク質TolCを新規なCysトランスポーターとして同定し、Cys生産性への有用性を実証した(産業財産権1)。
2)1)のスクリーニングよりSS結合形成酵素DsbAがCys耐性に関与することを明らかにした(文献1)。
3)還元ストレス(Cys)に曝した場合、本来酸化型で存在するDsbAが、還元型DsbAの状態で蓄積し(右図③)、DsbAの基質タンパク質の一つで、生育に必須なOstAタンパク質のSS結合が導入されず、還元状態で蓄積することが判明した(右図④)。また、DsbA-DsbB-ユビキノン酸化システムによりATP生産が増加することも明らかにした(右図⑤)(未発表)。以上の結果から、これまでにCysトランスポーターを高発現させ、細胞内Cysを積極的に排出させることにより、生育阻害の緩和とCys生産性の向上に成功している。しかしながら、細胞質からペリプラズムに排出されたCysをDsbA-DsbB-UQ酸化システムにより、シスチンに酸化し還元ストレスを除去することが判明した。その後シスチンは再び細胞内に取り込まれる機構が存在する可能性を見出している。本研究では、ペリプラズム・外膜をもたないグラム陽性細菌である枯草菌で、直接培地に無毒なシスチンが蓄積するので、生育阻害を緩和しながら、Cys生産性の向上が期待できる。また、大腸菌では報告例がないシスチンの取り込みトランスポーター(BspA)についても、枯草菌では良く解析されており、仮説の検証および、Cys生産菌の宿主として最適であると考えた。具体的には、①グラム陽性菌である枯草菌を用いたグルコースからのCys直接発酵法の確立、②枯草菌におけるBdbC-BdbD-UQ酸化システム(DsbA-DsbB-UQ酸化システムのパラロガス)によるCysのシスチンへの酸化、③BspA破壊株との組み合わせによるCys発酵生産への応用を目的とする。

関連する論文

1. Iwao Ohtsu*, Natthawut Wiriyathanawudhiwong, Susumu Morigasaki, Takeshi Nakatani, Hiroshi Kadokura, and Hiroshi Takagi: The L-cysteine/L-cystine shuttle system provides reducing equivalents to the periplasm in Escherichia coli. J. Biol. Chem., 285, 17479-17487 (2010).

2. Natthawut Wiriyathanawudhiwong*, Iwao Ohtsu*, Zhao-Di Li, Hirotada Mori, and Hiroshi Takagi: The outer membrane TolC is involved in cysteine tolerance and overproduction in Escherichia coli. Appl. Microbiol. Biotech., 81, 903-913 (2009).

(2011年05月30日掲載)

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