研究成果の紹介

視床下部の小領域の作り分けに成功
〜脳の複雑さが生み出されるメカニズムの一端が明らかに〜

視床下部の小領域の作り分けに成功
〜脳の複雑さが生み出されるメカニズムの一端が明らかに〜

【概要】
 奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域発生医科学研究室の山本真帆修了生(2022年修士)、笹井紀明准教授らのグループは、国立循環器病研究センターと共同で、マウス胚性幹細胞(ES細胞)から視床下部の小領域を作り分けることに成功しました。この研究成果は、脳の複雑さが生み出されるメカニズムの一端を明らかにしたものとして重要です。

【解説】
 脳の中で、視床下部と呼ばれる領域は体重の0.4%程度しかありませんが、ホルモンを分泌することにより、体温や食欲、情動(喜怒哀楽)など、全身状態をコントロールする重要な部分です(図1)。視床下部領域はさらに細分化された小領域に分けることができ、その1つ1つが役割を担うことによって、視床下部の多様な働きが担保されています。これらの小領域は胎生期にできますが、その多様性が生み出されるメカニズムはよくわかっていませんでした。
 今回、山本修了生らはマウスES細胞をまず幼弱な視床下部細胞へと分化させ、ここにソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)と呼ばれる分泌タンパク質を濃度依存的に添加しました。すると、視床下部内の各小領域が濃度依存的に出現することが明らかになりました(図2)。さらに、各々の小領域に発現する遺伝子を、ゲノム編集システムを用いて破壊すると、その小領域の細胞ができなくなり、別の小領域に変化することが明らかになりました。逆に、遺伝子を強制的に発現すると、小領域の比率を変更することも明らかになりました。このように、視床下部の小領域が濃度依存的にできること、さらにその細胞数の制御の分子機構が明らかになり、視床下部内で多様な細胞が生み出されるメカニズムの一端が明らかになりました。
この研究成果は、2023 年 3 月 2 日付で、英国の科学雑誌STEM CELLS電子版に掲載されました。

【用語の説明】
ホルモン:体内の特定の部分または細胞で産生され、血液などを通して全身に放出され、さらに別の標的細胞に働きかける生理物質。
モルフォゲン:濃度依存的に細胞の分化方向を決めることのできる分泌因子の総称
https://bsw3.naist.jp/bsedge/0001.html
ソニック・ヘッジホッグ:モルフォゲンとして働く分泌因子の1つ。
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/ソニック・ヘッジホッグ
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/位置情報

【特記事項】
本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業・基盤研究 Bにより支援を受けて実施されました。

【論文情報】
タイトル:Manipulation of signal gradient and transcription factors recapitulates multiple hypothalamic identities
DOI:10.1093/stmcls/sxad018
著者名:山本真帆(2022年修士修了生)、Agnes Ong Lee Chen(本学発生医科学研究室D3)、篠塚琢磨(本学発生医科学研究室助教)、白井学(国立循環器病研究センター)、笹井紀明(本学発生医科学研究室准教授)
雑誌:STEM CELLS
https://academic.oup.com/stmcls/advance-article-abstract/doi/10.1093/stmcls/sxad018/7068068

【発生医科学研究室】
研究室紹介ページ:https://bsw3.naist.jp/courses/courses212.html
研究室ホームページ:https://bsw3.naist.jp/sasai/

(2023年03月29日掲載)

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