バイオエンジニアリング

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植物の表現型と遺伝子型

概要

 生物は種内に塩基配列や、表現型の多型を維持しています。特に一度根ざした場所から動くことのできない植物にとって、生育する環境に適応していく過程で自然選択の影響を強く受けるため、こういった多型の蓄積が種の存続の鍵になります。また、農業に利用される品種にも様々な多型が存在し、味や耐病性などニーズにあった表現型を示す系統が作出されています。このような種内に維持される表現型多型情報(表現型の違い)と、次世代シーケンサーで得られたゲノムワイドな塩基多型情報(塩基配列の違い)を合わせて利用することで、注目する形質に関連する遺伝領域を検出することができます。この研究室では特に、植物の繁殖成功に関わる開花や生活史などの形質について、種内の表現型多型に関わる遺伝的要因と環境要因の探索を行なっています。繁殖成功に関わるこれらの形質は、生物多様性の観点からも、農業品種の改良においても重要です。

栽培実験による表現型多型の取得と環境要因の分析

 様々な環境に由来する系統を同じ条件で栽培し、表現型の違いを観察・分析することで、種内に維持される表現型多型の傾向や、関連する環境要因を分析します。さらに、複数の条件下で得られた栽培実験の結果を比較・解析することで、環境と遺伝子型の関連(Gene-environment interaction, G by E)を解析しています。特に野生植物を対象とした場合には、適応に関わる形質や環境要因を推定することにも活用しています。この研究室で注目する開花時期などの形質は、日長や温度をはじめとした環境要因と遺伝的要因により表現型が決定されます。実際に栽培してみて、どういった条件でどのような表現型を呈するかを観察して得た記録は、その植物の自然史の理解や、農業作物であれば収量にも直結する重要なデータになります。

図1 種内に維持される開花時期の違い

 

図2 圃場での栽培実験の様子

ゲノムワイドな塩基多型情報を用いた関連遺伝領域の検出

 次世代シーケンサーを用いた塩基配列解読技術の発展により、大容量のゲノム情報を得ることが可能となっています。先述のように、種内にも塩基多型が多く維持されており、次世代シーケンサーを用いることで様々な系統や品種のゲノム情報を比較し、大容量の塩基多型情報を収集することができます。この塩基多型情報と、栽培実験で得られた表現型多型情報を合わせて解析に用いることで、注目する形質に関連する遺伝領域を検出することができます。

図3 表現型に関連する遺伝領域の検出

 検出された遺伝領域は、表現型の違いに貢献する遺伝的要因の1つとして、ゲノム情報を活用し、配列の相同性による遺伝子の機能推定や、形質転換実験などにより機能解析することで表現型への貢献を検証します。さらに、分子進化学的な解析を行うことで、その遺伝子の分子進化のプロセスを明らかにすることや、種の環境適応機構の解明も進めています。