NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

バイオサイエンス研究科植物細胞機能研究室の厚井聡さん(学振特別研究員)の論文が日本植物形態学会第23回総会・大会で「平瀬賞」を受賞

 バイオサイエンス研究科植物細胞機能研究室の厚井聡さん(学振特別研究員)の論文が日本植物形態学会において平瀬賞を授賞しました。本賞は,この賞を創設した1996年が平瀬作五郎氏によるイチョウの精子発見の百周年にあたることに因み,平瀬氏の功績を讃えてその名を冠したもので,植物形態学の進歩に寄与する独創的で優れた論文に与えられます.受賞論文の選考は,日本植物形態学会によって設けられた選考委員会によって行われます.

受賞のコメント

 栄誉ある平瀬賞を頂き,大変光栄に思います.本論文は,以前の所属機関で片山なつさん(金沢大)と一緒に行った研究成果です.培養が困難な野生植物のカワゴケソウ科を材料に苦労しながら遺伝子発現解析を行った研究で,加藤雅啓博士を初め多くの方々に貴重なご助言・ご協力を頂きました.この場を借りて感謝申し上げます.カワゴケソウ科は稀に見る形態の特殊化を遂げており,現在は,この植物への進化過程を理解するために姉妹群のオトギリソウ科を用いた研究を行っています.今後も,この賞に恥じぬよう努力して行きたいと思います.


受賞時の発表内容

 カワゴケソウ科は,急流河川に生育する水生の被子植物で,非常に特異な形態を持ちます.被子植物では,茎と葉(シュート)は,茎の先端に存在する茎頂分裂組織から作り出されます.しかし,カワゴケソウ科の大部分の種では,茎頂分裂組織が存在せず,新たな葉は先に作られた若い葉の基部から内生発生し,結果として葉のみが積み重なった構造を示します.我々は,この特異な葉形成様式の進化に関わった分子機構を推定するために,特異な葉形成様式を持つカワゴケソウ亜科を用い,シュート形成に関わる遺伝子の発現解析を行いました.その結果,発生初期の葉は茎頂分裂組織と同じ遺伝子発現様式を示し,発生が進行すると,それらの遺伝子発現が葉の基部に限定されるようになり,相補的に葉の分化に関わる遺伝子が発現することを明らかにしました.以上より,カワゴケソウ亜科の特異な葉形成様式は,茎頂分裂組織が葉へと性質を転換させるために進化したと推論しました.

関連論文
Expression of SHOOT MERISTEMLESS, WUSCHEL, and ASYMMETRIC LEAVES1 homologs in the shoots of
Podostemaceae: implications for the evolution of novel shoot organogenesis.
Katayama N, Koi S, Kato M. (2010). Plant Cell 22: 2131-2140.

(2011年11月18日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook