プレスリリース 2020.08.24
酵母による肝機能改善アミノ酸「オルニチン」の高生産に成功
合成酵素の制御機構を解除して実現
~健康イメージを高めた発酵・醸造食品の生産に期待~
当研究室の高木博史教授らは、奈良県産業振興総合センター生活・産業技術研究部バイオ・食品グループの大橋正孝総括研究員との共同研究により、シジミに多く含まれるアミノ酸で、肝臓の働きを改善する効果が知られているオルニチンを酵母に、従来の約7倍の高い効率で生産させることに成功するとともに、生産量が増加する機構を明らかにしました。
酵母※1は発酵産業において広く利用されている微生物ですが、アミノ酸の生産に活用した例は未だ多くはありません。しかしながら、酵母を用いて製造される発酵・醸造食品や飼料などに含まれるアミノ酸の量を高めることができれば、製品の高付加価値化や発酵技術の高度化などに貢献できると考えられます。また、アミノ酸の一種であるオルニチン※2は、肝臓の解毒作用の促進、アルコール性疲労の抑制などの効果が報告されており、主に大腸菌などの細菌を用いた発酵法により生産されていますが、食品として高い安全性が認められている酵母を使えれば、有用性の高い技術になることが期待されます。
これまでに私たちは、既存の清酒酵母からオルニチンを高生産する菌株を分離し、この菌株の特許化およびオルニチンを多く含む清酒の商品化に成功しています。今回は、酵母のオルニチン生産性をさらに向上させる目的で、この菌株のオルニチン高生産メカニズムを初めて明らかにしました。
その結果、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(NAGK)という酵素の遺伝子に変異を見出し、この変異型NAGKを発現する酵母ではオルニチン含量が約7倍に増加することを明らかにしました。通常、オルニチンから合成されるアルギニンがNAGKをフィードバック阻害
して働きを抑えることによりオルニチンやアルギニンの過剰生産を防いでいますが、変異型NAGKではその仕組みが解除されていることを突き止めました。
これまでにオルニチンを高生産する酵母の事例はなく、従来にない新規な酵母を用いることで、健康イメージを付与した清酒・酒粕などの発酵・醸造食品を国内外の市場に提供することが可能となります。
この研究成果は、国際代謝工学会の学会誌であるMetabolic Engineering誌(オランダ)のオンラインサイトに2020年8月23日付で掲載されました。
【掲載論文】
論文タイトル:High-level production of ornithine by expression of the feedback inhibition-insensitive N-acetyl glutamate kinase in the sake yeast Saccharomyces cerevisiae (清酒酵母におけるフィードバック阻害非感受性型N-アセチルグルタミン酸キナーゼの発現によるオルニチン高生産)
著者:Masataka Ohashi*, Ryo Nasuno, Shota Isogai, Hiroshi Takagi (大橋 正孝*、那須野 亮、磯貝 章太、高木 博史)
所属:奈良先端科学技術大学院大学、*奈良県産業振興総合センター
掲載誌:Metabolic Engineering, DOI: 10.1016/j.ymben.2020.08.005
【リンク】
(日本語)
奈良先端科学技術大学院大学 NEWS & TOPICS
http://www.naist.jp/news/2020/08/007209.html
奈良先端科学技術大学院大学 プレスリリース
http://www.naist.jp/pressrelease/2020/08/007208.html
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域 研究成果
https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=2143
奈良県産業振興総合センター 報道資料
http://www.pref.nara.jp/item/233667.htm#moduleid57038
(英語)
NAIST Research Achivements
http://www.naist.jp/en/research_achievements/2020/08/007220.html
NAIST Division of Biological Science Research Outcomes
https://bsw3.naist.jp/eng/research/index.php?id=2148
EurekAlert
https://eurekalert.org/pub_releases/2020-08/nios-jst082720.php