研究成果

研究成果

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の高木博史教授が公益財団法人すかいらーくフードサイエンス研究所の平成24年度学術研究助成対象者に選ばれました。

バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の高木博史教授が公益財団法人すかいらーくフードサイエンス研究所の平成24年度学術研究助成対象者に選ばれました。本助成は、食に関する科学研究を行う研究者及び研究グループに対し、研究助成金を支給し、国民の食生活の向上と外食産業の発展に寄与することを目的としています。

助成受託コメント

 私はかつて大手食品企業の研究所で「コンビニ向け冷凍パン生地」の製造に関わりましたが、評価用に作製した焼き立てのパンを皆が美味しそうに食べる光景を今も鮮明に覚えています。その時に感じた幸せな気持ちがきっかけで、その後大学に異動すると、パン酵母の細胞が冷凍や乾燥などで引き起こされる酸化ストレスにどのように適応するかについての研究を始めました。現在、遺伝子組換え技術によって育種したパン酵母は、依然として実用化が困難な状況です。しかしながら、例えば家庭で手軽に焼き立てのパンを味わいたいというニーズに応えるためには、パン酵母の酸化ストレス耐性を飛躍的に向上させることが必要であり、そのために分子生物学的手法は欠かせない技術です。今回頂いた助成金を有効に活用し、パン酵母における一酸化窒素(NO)の生理機能を明らかにすることで、パン酵母の酸化ストレス耐性向上に直結する成果を創出したいと思います。


助成受託テーマ

パン酵母の酸化ストレス耐性に関与する一酸化窒素の生理的役割の解明

 パン酵母は製パン過程において、冷凍、乾燥、高浸透圧など過酷な環境に曝されています。特に、冷凍生地やドライイーストの製造では、細胞内は活性酸素種(ROS)が発生する酸化ストレス状態であり、有用機能(炭酸ガスの発生、味・風味物質の生成)が制限されます。したがって、パン酵母への高度な酸化ストレス耐性の付与により、長期保存に適した冷凍生地用パン酵母、およびドライイーストの開発が可能になります。近年、哺乳類ではNOがシグナル分子として酸化ストレス耐性に関与し、その生理機能が注目されています。一方、酵母ではゲノム上に哺乳類のNO合成酵素の相同遺伝子が存在しないため、NOの生成機構や生理機能は不明です。私たちは、酸化ストレス下において、酵母の細胞内でプロリンからアルギニンを介して酵素的にNOが生成し、細胞に酸化ストレス耐性を付与することを見出しました。また、パン酵母においてもNO合成系の強化が発酵力の向上に寄与することを報告しました。本研究では、パン酵母におけるNOの生理的役割と下流経路の解明を目的に、1)ニトロソ化タンパク質の同定と抗酸化能との関連、2)NO応答性の新規なシグナル伝達系や代謝系の解析を行います。将来的には、NO生成における重要な酵素の改良により細胞内で効率的にNOを生成させることで、パン酵母の育種への応用が期待できます。


A:酵母におけるプロリン/アルギニン/一酸化窒素(NO)の代謝経路
B:プロリン/NO合成系を強化したパン酵母(PM)は、親株(WT)に比べて、細胞内のNOレベルが上昇し、活性酸素種(ROS)レベルが低下した。
C:プロリン/NO合成系を強化したパン酵母(PM)は、親株(WT)に比べて、酸化ストレス(過酸化水素、高温乾燥、冷凍)に対する耐性が向上した。
D:プロリン/NO合成系を強化したパン酵母(PM)で作製したパン生地は、親株(WT)で作製したものに比べて、高温乾燥後や冷凍後の発酵力が増加した。


・関連論文
Y. Sasano*, Y. Haitani*, K. Hashida, I. Ohtsu, J. Shima and H. Takagi: Enhancement of the proline and nitric oxide synthetic pathway improves fermentation ability under multiple baking-associated stress conditions in industrial baker's yeast. *These authors contributed equally to this work. Microb. Cell Fact., 11:40 doi:10.1186/1475-2859-11-40 (2012).

A. Nishimura, R. Nasuno and H. Takagi: The proline metabolism intermediate △1-pyrroline-5-carboxylate directly inhibits the mitochondrial respiration in budding yeast. FEBS Lett., 586, 2411-2416 (2012).

Y. Sasano*, Y. Haitani*, I. Ohtsu, J. Shima and H. Takagi: Proline accumulation in baker’s yeast enhances high-sucrose stress tolerance and fermentation ability in sweet dough. *These authors contributed equally to this work. Int. J. Food Microbiol., 152, 40-43 (2012).

A. Nishimura, T. Kotani, Y. Sasano and H. Takagi: An antioxidative mechanism mediated by the yeast N-acetyltransferase Mpr1: Oxidative stress-induced arginine synthesis and its physiological role. FEMS Yeast Res., 10, 687-698 (2010).

Y. Sasano*, S. Takahashi*, J. Shima and H. Takagi: Antioxidant N-acetyltransferase Mpr1/2 of industrial baker's yeast enhances fermentation ability after air-drying stress in bread dough. *These authors contributed equally to this work. Int. J. Food Microbiol., 138, 181-185 (2010).

T. Kaino, T. Tateiwa, S. Mizukami-Murata, J. Shima and H. Takagi: Self-cloning baker’s yeasts that accumulate proline enhance freeze tolerance in doughs. Appl. Environ. Microbiol., 74, 5845-5849 (2008).

(2012年09月27日掲載)

一覧へ戻る