NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

細菌ゲノムの進化の機構に新しい光- 大腸菌の核様体タンパク質H-NSは外来性遺伝子の発現を特異的に抑制していることを解明 -

細菌ゲノムの進化に遺伝子の水平伝達が大きく関与していることが、ゲノム配列決定の進展により明らかになっている。しかし、そうした外来性遺伝子が、どのように宿主細胞の転写制御ネットワークに組み込まれていくのかということは、細菌ゲノムの進化を知る上で、残された重要な研究テーマである。外来性遺伝子が常時発現していれば、宿主細胞の増殖に不利な効果を与えるであろうということは、容易に想像できる。細菌には、高次構造(湾曲DNA)を認識してDNAに結合し、ゲノムDNAの細胞内での折りたたみ(核様体構造)に関与するヒストン様タンパク質が存在する。また、それらは、転写の調節タンパク質としても働いている。情報科学研究科情報生命科学専攻の小笠原直毅教授の研究グループでは、大腸菌のヒストン様タンパク質のひとつ、H-NSについて、その細胞内でのゲノムDNA上の分布を、免疫沈降法と高密度DNAチップを組み合わせた新しい方法(ChIP-chip法)で解析し、H-NSはゲノム上の約250箇所に結合し、約1,000遺伝子の転写を抑制していることを明らかにした。そして、重要な発見として、H-NSの結合部位の大部分は外来性遺伝子であることが明らかになった。外来性遺伝子を直ちに宿主細胞の発現制御系のコントロール下に置くためには、配列特異性の低い核様体タンパク質による制御が考えやすいと言うことが指摘されていたが、今回の結果は、まさにH-NSがそうした機能を果たしており、細菌ゲノムの進化に重要な役割を果たしてきたと考えられることを示している。H-NSが発現を抑制している遺伝子は外来性遺伝子の約半分である。残りの外来性遺伝子の発現は、他の核様体タンパク質により制御されているのであろうか、それとも、特異的な制御システムを獲得しているのであろうか、今後の研究課題である。

掲載論文

Escherichia coli Histone-Like Protein H-NS Preferentially Binds to Horizontally Acquired DNA in Association with RNA Polymerase
Taku Oshima; Shu Ishikawa; Ken Kurokawa; Hirofumi Aiba; Naotake Ogasawara. DNA Research 2006; doi: 10.1093/dnares/dsl009

(2006年10月23日掲載)

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