NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

根の先端で細胞増殖の鍵を握る遺伝子を発見

植物の根や茎の先端はその生涯を通じて成長を続ける。ある種の樹木などではその期間は数千年にさえ及ぶ。これは根や茎の先端に「幹細胞」(継続的な分裂能力と様々な細胞への分化能力をそなえた細胞)が維持されているためである。動物と植物に共通して、幹細胞は近接する細胞からのシグナルに依存して維持されることが分かっている。植物の根の幹細胞は「静止中心」と呼ばれるわずか数個の細胞を取り囲む様に配置している(上の図)。静止中心の細胞は、それ自体は分裂しないが、周囲の幹細胞を維持している。同様に茎の先端の幹細胞も、その下にある「形成中心」によって維持されている(上の図)。茎の形成中心で発現するホメオドメイン転写因子WUSは、茎の幹細胞の維持に重要であることが既に示されていた。一方、根の静止中心で幹細胞の維持に働く遺伝子は明らかでなかった。最近になってシロイヌナズナのゲノム中に、WUSによく似たタンパク質をコードするWOX5遺伝子が発見された。今回の研究ではWOX5の機能解析をおこなった。

WOX5破壊株の根では、先端の「根冠」と呼ばれる組織をつくる幹細胞が増殖を止めて分化を始めた。また根の成長に必要な別の遺伝子も同時に破壊すると、すべての幹細胞が失われて根の成長が発芽後すぐに停止した。反対にWOX5遺伝子を静止中心よりも広い領域で強制的に発現させると、多数の幹細胞が蓄積した(下の図)。これらの結果は、静止中心で発現するWOX5遺伝子が、周囲の幹細胞の維持に必要かつ十分な機能を持つことを示している。また、WOX5破壊株の静止中心でWUSを発現させると根の幹細胞は正常に戻り、反対にWUS破壊株の形成中心でWOX5を発現させると茎の成長が回復した。これらの結果はWUSとWOX5が交換可能であり、根と茎の成長がよく似た細胞間コミュニケーションを通じて制御されていることを示している。

動物では再生医療への応用を目指して幹細胞の研究がさかんに行われているが、基礎研究の分野では植物でも動物に匹敵するレベルで研究が進行している。根の成長制御は農業や園芸産業などへの応用につながる分野であり、今回の研究成果が将来作物や花卉の改良につながることが期待される。

この研究業績はフライブルク大学(ドイツ)・ユトレヒト大学(オランダ)との共同研究で得られたものです。


図. 茎と根の先端部における幹細胞の配置。茎の幹細胞は形成中心に、根の幹細胞は静止中心に接している。茎の形成中心ではWUS遺伝子が、根の静止中心ではWOX5遺伝子が発現している。WUSとWOX5は相同なホメオボックス型転写因子をコードしている。


図. 通常根冠の幹細胞は1層であるが(左)、WOX5の発現領域を広げると根冠の幹細胞が多層化して蓄積し、同時に分化した根冠の細胞層が減少する(右)。

掲載論文

Ananda K. Sarkar, Marijn Luijten, Shunsuke Miyashima, Michael Lenhard, Takashi Hashimoto, Keiji Nakajima, Ben Scheres, Renze Heidstra, and Thomas Laux Conserved factors regulate signalling in Arabidopsis thaliana shoot and root stem cell organizers Nature 2007 April 12; 446(7137) 811-814

(2007年04月12日掲載)

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